新しいブログのURLは、http://a-sawada.jugem.jp/ になります。
これまでずっと使ってきたブログタイトル「MONKWELL MANOR GUEST HOUSE」を廃止(という言い方もなんだけど)し、今度のブログのタイトルは、シンプルに「Akihisa Sawada」になります。
それから僕のイラスト・ポートフォリオサイトも、移転しました。
内容的にはそのままですが、新URLは、http://illustrator-akihisa-sawada.com/ となります。
なぜ急に引っ越すことにしたか、といえば、直接的には、僕のイラストサイトの方のドメインが期限切れになった、ということが一番の理由でした。
気づいたらサイトが表示されなくなっていて、「あれ、サーバー・トラブルかな」と思ったら、ドメインの更新料金を払ってなくて、期限が切れてたんですよね(へへ)。
2月半ばまでに料金を払えば復活できる、ということが判明したんですが、どのみち保存できる容量とかちょっと手狭になってきたし、これから長い目で見たら、このへんで引っ越しておいた方がいいのかな、と思い、決めました。
サーバのレンタル料は、今まで月に500円ぐらいだったのが1,500円になっちゃったんで、あいたたではあるんですけどね。でも今まで500MBまでだったのが、今度は3GBになったんで、まあ仕方ありません。
これでまず容量の心配はないということで。
ちなみに、今まで利用していたのが「ロリポップ」、今回の引越し先が「ヘテムル」です。
そういうわけでサイトを引っ越したんですが、ブログまで引っ越すことに決めたのは、一言で言えばサイバーエージェントの提供してくれるサービスに「そろそろ飽きた」というのが大きいです。
直接的には、カスタマイズ性の悪さや、貼り付けられるタグに禁止事項が多い・・・などがあります。
でもそんなにぶつぶつ言うほど更新の頻度も多かったわけではないし、アドレスが変わることのリスクもあるし、我慢してはいたんですが、今回のサイトサーバー引越しに合わせて、ついに踏み切ることに決めました。
なんかダラダラと長い文章になってしまいました。
そういうわけで、本日から新居です。
お気に入りリンクやRSSに登録して頂いた皆様、変更をお願いします。
なんでそんなサイトをのぞいたかというと、今年に入ってから、自分でも感心するぐらい運が悪く、何をやってもうまくいかないからである。
悪いことばかりが重なるし、ムキになったり努力したりすることがすべて裏目に出て、徒労に終わってしまう。
あまりにもひどい。
最初はそれで、腹を立てたり、落ち込んだり、悲しんだりしつづけていた。
しかしあまりのひどさに、今では首を傾げるしかなくなった。自分でも呆れてしまう。
振り返ってみても、自分にとってこんなに最悪な年はこれまで他にないと思う。
具体的にここで語りたくはないが、精神的にもひどいし、状況的にもひどすぎる。動けば動くほど、苦しい立場に追い込まれていく。
それで、ふと思い立って、細木数子のサイトをなんとなくのぞいてみたわけである。
それによると僕は、
土星人+
大殺界の”停止”
平成18年は、人生最悪の運気。
・・・当たっている。
昨日は本屋で、細木数子の本「土星人の運命」を買ってきた。
単純といえば単純な性格だが、ここまで状況がひどいと、なんでもいいから誰かに説明を求めたくなるのも人情である。
理屈では説明しきれない、大きな悪い流れの中に、自分が呑み込まれているように感じられる。
そういう時は、科学的根拠があろうがなかろうが、何かより大きな存在、神や、宇宙を支配する見えない法則、運命や宿命に、今の状況を抜け出すヒントを求めたくなるものだ。
「土星人の運命」を読んでみて、これまでの何年かのことを含め、びっくりするぐらい僕の状況に当てはまっているのに驚いた。
土星人の性格、と書かれた内容も、かなり僕自身にあてはまっていると思う。
すごくあたっている。
もちろん全て真に受けるというわけではないし、占いには強力な暗示の力があるのも確かである。これはあんまり当たっていないなと思う部分もある。
それでも自分の内省を促し、冷静に現実に対処していく、なんとか辛い状況を乗り越えていく、という意味では、彼女の本は僕にはとても参考になった。占いは、いい意味で活用していけばいい。占いとは、もともとそういうものなのだから。
少なくとも僕の今の状況が、ひどいことは間違いない。
それをどう受け入れるかという問題だが、人生いい時もあれば悪い時もあり、今はその最低の状況なのだ、と本に書かれていると、なるほど、そうなのか、ならまあ仕方ないか、と少しは慰められる。
悪い時には悪いときなりの、心の持ち方、耐え方、やり過ごし方があるんだな、と思う。
朝の来ない夜はない。
春の来ない冬はない。
降り止まない雨はない。
どれも言い古された言葉だが、真実ではある。
無理に流れに逆らおうとせず、状況に耐え、好機が来るのをじっと待つしかない。
片隅でひっそりと、今すぐには報われない地味な努力を続けながら。
信じる信じないは別としても、この「土星人の運命」を読んで、少し楽な気持ちになったみたいだ。
● 自分は何星人?知りたい方はこちらからどうぞ
http://book.matrix.jp/book/index.shtml
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冗談みたいな話だが、本当の話だ。
六十七歳のじいさんの軽い冗談なんだから、そのぐらい許してやればいいじゃないか、とは思うけれど、空港職員はそうは思わなかったみたいである。すぐに通報し、警察が飛んできたらしい。
「おいおい君、軽い冗談だろう。ちょっとちょっと、おい」と彼はたぶん弁明したんだろうが、通じなかったみたいだ。
そして結局裁判所まで引っぱられ、約10万円の罰金を言い渡された。
気の毒と言えば気の毒。まぬけと言えばまぬけな話である。
しかしこういう事件は、なんとなく愛嬌があって僕は好きである。
小説かなにかの、ちょっとしたエピソードに使えそうじゃないですか?
ジョン・アーヴィングの小説なら、主人公の数奇な運命を構成する一つのエピソードとして、当たり前に出てきそうだ。
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NEWSWEEK JAPAN 5/24号によれば、「M:i:Ⅲ」の週末興行収入ランキングは1位だったが、前作のⅡに比べても、100万ドルもダウンした、ということだ。
記事によれば、観客のクルーズ離れは、彼が心酔する新興宗教サイエントロジーのせいであり、婚約者ケイティ・ホームズとの恋愛ではしゃぎ過ぎたためであり、もっと言えば、彼がすでに若者の心をつかめなくなったからだ、と断じている。
「彼は43歳であり、もうクールな存在とは言えない」
またある映画会社の重役は、「アメリカ人はトムを見限ったようだ。彼の神秘的な魅力は消えてしまった」と述べている。
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「彼はアクション映画を卒業すべき」とか、「宗教的な宣伝をやめれば、何年かはスターでいられる」といった声もある。
本国での彼の評判が本当のところどうなのかはわからないが、ちょっとあんまりじゃないか、という気がする。
昔から僕は、彼の大ファンなのだ。
しかし「3」を観た人の感想をネット上で読むと、やはり辛辣な意見が多い。
にやけたクルーズ・スマイルと自虐ギャグだけが彼らしい、とか、今回の3はストーリーまでインポッシブルだとか、いっそのことシュワルツ・ネッガーをゲスト出演させたら面白くなったんじゃないかとか、言いたい放題である。
どちらにしても、スターというのは辛いものだ。
もともと彼が好きじゃないという人はともかくとして、それまで彼の映画を楽しんできた人も、彼の演技で感動させられてきた人も、あっという間にその反対の立場に回ってしまう。
まあ別に彼に対して何か義理があるわけじゃなし、それはそれで何も悪いことではないのだが。
僕としては、実際の映画がそれほどひどいものでなく、いつものように楽しませてくれることを祈るばかりだ。
そしてどちらにしても、僕は断固としてトム・クルーズのファンである。
7月8日が待ち遠しい。
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「人魚姫」あらすじ(最終回)---------------
人魚姫はお姉さんたちから渡されたナイフを手に取り、花嫁と花婿が眠る部屋へとそっと入っていった。
自分か王子か、どちらかが死ななければならない。
王子を殺せば、自分はもとの人魚に戻れる。
夢は叶わなかったが、死なずにはすむ。
部屋へ入ると、美しい花嫁が、王子の胸に頭をもたせかけて眠っているのが見えた。
人魚姫は身をかがめ、王子のその美しい額にキスをした。
空を見上げた。
夜明け前の赤い光は、しだいに明るくなってくる。
ナイフを見つめ、王子を見つめた。
と、王子は夢を見ながら、花嫁の名を呼んだ。
人魚姫の手の中で、ナイフがぴくっと震えた。
次の瞬間、人魚姫はナイフを波の彼方へ投げ捨てた。
波は赤く輝いて、血のしずくが水の中から泡立つように見えた。
夜明けが近づき、人魚姫の身体はすでに死へと向かいつつあった。
その目は半ばかすんでいた。
彼女は王子を一度だけ見つめ、海の中へ飛び込んだ。
自分の身体が溶けて、泡になっていくのがわかった。
日が昇った。
その光は冷たい海の泡を、おだやかに暖かく照らしていった。
人魚姫は少しも死んだような気がしなかった。
上のほうに、透き通った美しいものの粒たちが、何百となく漂っているのが見えた。
あれはなんだろう?
その向こうには、船の白い帆や、赤い雲が見える。
彼女は美しい音楽に包まれていた。それは清らかな精神の調べのようなもので、誰の耳にも聞こえない音楽だった。
透明で、美しく、ふわりと空気を漂うものたちが見える。
いつしか人魚姫もその一部となり、泡から抜け出し、しだいに上へと昇っていった。
「わたしはどこへ行くの?」と人魚姫はいった。
「空気の娘たちのところよ」
と、漂うものたちの一人が答えた。
「人魚の娘も、私たち空気の娘も、死ぬことのない魂を持っていないわ。いつまでも続く魂をもつためには、何かほかのものの力に頼らなければならないの。でも、よい行いをしつづけると、魂を自分のものにできるの。私たちは、蒸し暑くて毒のある空気で人が死んでしまったような、暑い国に飛んでいって、そこで、涼しい風を吹かせて上げる。それに、花々の香りを空気の中に広がらせて、みんなの気分をさわやかにし、元気をつけてあげる。そうして良いことをし続けて、三百年たつと、わたしたちは、死ぬことのない魂をさずかって、人間の永遠の幸せを分けてもらえるの。
かわいそうな人魚姫。あなたは、わたしたちの目ざしていることと同じことをめざして、心をこめて努めてきたわね。あなたは苦しんだり、我慢したりし続けて、こうして、空気の精の世界まであがってきたのよ。そしてこれから、あなたが良い行いをしていけば、三百年たつと、あなたも、死ぬことのない魂をもらうことができるのよ」
人魚姫は透き通った両腕を、神様のお日様のほうに高くさしあげた。
その時、生まれてはじめて、涙があふれてくるのを感じた。
船の上がまたさわがしくなった。
王子が、花嫁と一緒に自分を探しているのが、人魚姫には見えた。
二人は海に漂う泡を悲しげに見つめていた。人魚姫が波の中に身を投げたのを知っているようだった。
空気になった人魚姫は、花嫁のひたいにキスし、王子に微笑みかけた。
そして彼女は、ほかの空気の子たちと一緒に、バラ色の雲のほうへと昇っていった。
「三百年たったら、わたしたちこんな風に、神様の国へと昇っていけるのね!」
「もっと早くそこに行けるかもしれませんよ」空気の精の一人が言った。
「わたしたちは、人の目には見られずに、子供のいる人間の家の中にすっと入っていくんです。そして親たちを喜ばせ、親たちにかわいがられるだけの値打ちがある、良い子をひとり見つけると、その一日ごとに、必ず神様は私たちが魂を得るまでの日を短くしてくださるのです。わたしたちが嬉しさのあまり、思わずその子に微笑みかけると、そのたびに、三百年から一年、減らしてもらえます。けれど、行儀の良くない、悪い子をみると、思わず悲しくなって、涙を流さずにはいられません。そうすると、涙が一滴こぼれるごとに、魂をもらえるときが、一日ずつ、増えていくのですよ」
おわり。
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(「人魚姫」の紹介を終えて)
いかがでしたか?
あらすじ紹介ということで初めてみたものの、ずいぶん長い紹介になってしまいました。
楽しんでいただけたとしたら、紹介させていただいた僕としても幸いです。
底本には、何冊かの古い翻訳本を参考にしています。現代版のものもいくつか参考にしました。
どれも原作は一つですから書かれていることの内容は変わりありませんが、僕なりに骨子を抜き出して細かな部分は割愛した点や、僕なりの文体で、多少の脚色も交えながら紹介させてもらいましたので、皆さんがよく知っている「人魚姫」とは若干雰囲気が違っていたのではないかと思います。しかし原作の良さや本質そのものは損なっていないつもりです。
子供向けの、簡略化された絵本とは別に、実際のアンデルセンの原作の翻訳を読んでみると、とても子供のためのお話とは思えない、むしろ大人向けのお話の方が多いんじゃないかと、感じられました。
この「人魚姫」もそうでした。
ここには彼女の憧れや恋の切なさ、喜びや悲しみ、生と死、信仰、そういった生きることの本質的な、重要な要素が、一つの物語として描かれています。
そしてそれは、子供よりはむしろ、すでにさまざまな人生の過程を経験してきた大人、かなわなかった辛い恋愛体験を知っている大人にこそ、強く訴えかけてくるものであり、共感と深い味わいを残すものだろうと思います。
ぼくは今回の「人魚姫」をきっかけに、他にもいくつかのアンデルセンの物語を読んでみましたが、どれも、心に直接響いてくるいいお話でした。
今この歳になって、アンデルセンの原作を読み返してみるというのは、新たな素晴らしい経験だったし、とても貴重な体験でした。たまたま図書館で手に取った本がこんなに大きな感動をもたらしてくれるなんて、なんだかとても得した気分です。
アンデルセン ハンス・クリスチャンは、1805年4月2日に生まれ、1875年8月4日に亡くなりました。デンマークの文学者です。
後日談によれば、この「人魚姫」は、アンデルセン自身の失恋が織り込まれていると言われ、人魚姫はアンデルセン自身の自画像だとも言われています。
彼が好きだった女性との恋は報われず、彼は一生を独身ですごした、ということです。
ほかにも良いものがたくさんありますので、これからもこのブログ上で、いくつかは紹介していきたいな、と思っています。
著作権の問題については、アンデルセンが亡くなってすでに約130年がたっていますし、古い版では、翻訳された方もすでに死後50年を経ていますので、問題はないでしょう。
それらを参考にしながら、次回の作品ついては、より僕なりの解釈と文体に置き換えて、ご紹介していきたいと思います。
「青空文庫」とはまた一つ違った試みとして、僕自身も楽しんで紹介していきたいと思います。
よろしかったら、またおつきあい下さい。
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アンデルセン童話集 1 改版―完訳 (1) (文庫) アンデルセン童話集 2 改版―完訳 (2) (文庫) アンデルセン童話集 3 改版―完訳 (3) (文庫) | ||||||||||||||||||||||||
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僕の感想としては、まあまあそこそこ楽しめたかな、という感じだった。
もともとの小説ファンとしては、やはり若干消化不良気味、という感じはいかんともしがたい。
パンフに掲載されているインタビューでトム・ハンクス本人が述べているように、小説「ダ・ヴィンチ・コード」のその大きな魅力は、なんといってもその知的な探求、知的な冒険の面白さ、といった側面に負う所が大きい。
「映画化するのはとても難しかったよ。僕やロン、アキヴァは、まるで困難な手術を行うような気持ちで映画化に挑んだよ」
「ダ・ヴィンチ・コード」の面白さは、やはり小説ならではの面白さである。じっくりと細部まで掘り下げ、その歴史の舞台裏や因果について、「ふんふん」と興味深く時間をかけて読み進んでいく面白さ。読者の知的好奇心を満足させてくれるし、それらの連関が精密に謎解きに結びついてこそ、「ダ・ヴィンチ・コード」の真髄である。単純にミステリやサスペンス小説とくくってしまうと、もっと出来のいいよく出来た小説は他にいくらでもある、ということになる。
そういったこの小説ならではの面白さを、時間的制約の厳しい映画の中で見せていくのは、そもそも最初から、ほとんど不可能に近い試みだったと言える知れない。それは昔「ジュラシックパーク」に感じたことでもあった。
膨大な歴史的、知的記述と同時に、そこから生まれる人類の魂の歴史への考察、ある種の哲学的洞察や真理への探求、といった面が、小説に深みと、なんともいえない魅力を与えているはずなのだが、そういった原作にとって一番大切なはずのものがごっそりと抜け落ちてしまう。
映画では、全体的にどうしても、駆け足のダイジェスト版という感じになってしまった。謎解きの面白さもほとんど感じられなかった。シオン修道会やダ・ヴィンチや、キリスト教の歴史についての話は、ただの説明ゼリフになってしまったように思う。
小説のほうが、はるかに面白かったというのが、率直な感想だった。
実際、”映画”そのものとしての出来はどうなのか、という点では、なかなか判断しづらかった。
小説と映画は、そもそも別物であって当然だし、そういう意味で、小説と映画を比較しすぎるのはフェアではないかも知れない。
では、一本の”映画”としての出来はどうなのか?
そう考えてみたが、しかしやはり、原作を良く知っている以上、公平な判断は難しい。
そこに描かれない部分についても、こちらとしてはすでに”知っている”し、描かれない部分についても思い出したり、頭に浮かんだりして、理解できてしまう。
一つの物語として、何が描かれるべきで、何はすっとばしてもかまわなかったのか、というのは、原作を読まずに今回の映画を見た人の感想が一番の判断材料になると思う。
僕としては、特にフラッシュバックの使い方などが、果たして原作を知らない人がこれを理解できるだろうか、と首を傾げた部分だった。その挿入の仕方にしても、ちょっと安易というか、とってつけたような感じがした。シラスの過去や、アリンガローサとの出会いのエピソードなど、たぶんあれではほとんど意味がわからないと思う。
シオン修道会、アリンガローサ司教、シラス、導師の関係も、よく理解できなかったのではないだろうかと思う。
映画として、とにかく物語を展開させていかなくてはならない、という命題がまず第一で、そのために、一つ一つの謎も、謎というほどのこともなくいとも簡単にあっさりと片づけられていってしまう。
チューリッヒの銀行であっさりと金庫を開けるシーンには、いささか愕然とした。
ちょっとちょっと、そりゃないんじゃないの、という感じだった。
銀行支配人の登退場とその行動も、一個のキャラクターとしてはお粗末過ぎるというか、物語の一つの重要なピースをしめる人物としては、いささか意味不明すぎる気がする。
いきなり「逃げてください」と言われ、次の瞬間いきなり銃を突きつけられるというのが、意外性うんぬんの前に脈絡がなさすぎるように思った。
ちょっと否定的なことばかり書いたけれど、トム・ハンクスとオドレイ・トトゥ、ジャン・レノといった俳優陣は悪くなかった。
もともと僕はトム・ハンクスは素晴らしい俳優だと思っているし、やっぱりうまいよなあと今回も思った。
眉間にしわをよせた彼の困ったような顔と広いおデコが、僕は個人的に好きである。
また、実際のルーブル美術館でロケをしている点や、数々の絵画、建物や教会など、小説で「ダ・ヴィンチ・コード」に親しんだ人にとっては、映像的には観るべきものはあったと思う。それから真犯人がつかまったあとの、エピローグ的なエピソードの描写は、悪くなかった。実際、この結末に至るシーンを描くために(けっこう長い)、それまでの内容が薄いものになってしまったのではないかいう気がする。
いずれにしても、原作ファンにとっては、とりあえずこの映画は見ずにはいられないだろうし(僕もそうだったように)、まあそこそこには楽しめると思うので、まあ、観てみて下さい。
P.S
いつも思うのだけど、こういう宗教的な題材を扱った映画の場合、必ず激しい論争が起きますね。
旧ソ連のキリスト教圏では一斉に上映反対の抗議行動が起きたということだし、ロシア正教徒が抗議集会を開き、映画のポスターを燃やして鑑賞しないよう呼び掛けたり、モスクワ司教は「福音の歴史を侮辱し、ゆがめた映画の公開は遺憾」とする声明を出したということである。
ベラルーシの首都ミンスクのカトリック教会司祭は上映反対のハンストを開始し、ウクライナのキリスト教団体は、抗議の十字架行進を行ったということだ。
「パッション」はもちろんそうだったし、「ナルニア国物語」でも、いろいろと論争が起きた。
まあまあ、これはフィクションなんだからさ、面白ければいいじゃん、と僕を含めた多くの日本人は思うわけだけれど、国によってはそうもいかないみたいである。
それは宗教が彼らにとって生活の根幹をなす重要なものであるからだろうし、普段特別信心深いというほどではなくても、キリスト教が日常的な基盤として機能している社会にとっては、これは子供の教育に重大な影響を及ぼす問題である、
と考えたりするのだろう。
そりゃたしかに、あまりにも宗教に対して無関心な日本人が悪いのかも知れないけどね。
しかしそれに対して、トム・ハンクスはあっさりと述べている。
「この本が物議をかもしたことも、この本に反感をもつ人がいることも、知っているさ。でも、そういう人はこの映画を観に来なきゃいいんだよ」
●過去の記事 → 「ダ・ヴィンチ・コード 愛蔵版」を読む
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■ ダン・ブラウンの本 | |||
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「人魚姫」あらすじ(5)---------------
「王子様は、となりの国の王様の、美しいお姫様と結婚することになったそうだよ!」
その噂が、王国中に知れ渡った。
「ぼくは旅に出なきゃならない」と王子は人魚姫に話した。
「となりの国の、美しいお姫さまに会わなくちゃならない。ぼくの両親が、そう望んでるからね。でも、ぼくがそのお姫さまを愛することなんて、ありっこないよ!だってその人は、あの修道院の娘さんじゃない。・・・もしぼくが、いつか花嫁を選ばなければならなくなったら、そのときは、いっそ、きみを選ぶよ」
そう言うと、王子は人魚姫の唇にキスし、彼女の長い髪をなで、彼女の胸に自分の頭をもたせかけた。
王子にそうされながら、彼女の胸は熱く高鳴った。彼への思いでいっぱいだった。
人魚姫は王子との幸せを思い、死ぬことのない魂を思った。
人魚姫も、王子の旅の船に同行することになった。
航海の途中、ある月の明るい夜、みんなが寝静まった後、人魚姫が船べりに坐って、澄みきった海の水の奥をじっと見つめていると、人魚姫のお姉さんたちが海の上へ浮かび上がってきた。そしてとても悲しそうな目で妹を見つめた。
人魚姫は、お姉さんたちに手を振った。微笑みかけ、自分のほうは何もかもうまくいっていて幸せです、と話そうとした。でもそう伝えることは出来なかった。
やがて船のボーイが人魚姫のほうに近づいてきて、お姉さんたちは海の底へと帰っていった。
翌朝、船は着いた。
パーティが開かれ、お姫様が現れた。
「ああ、あなたです!」と王子は彼女を見て言った。
「ぼくが海岸に倒れていたとき、ぼくを救ってくれたのは、あなたです!」
彼女は修道院に一生を捧げた娘だったわけではなく、王女にふさわしい教育を受けるため、一時的に修道院に入っていただけだったということがわかった。
王子は、顔を赤くしている王女を、腕に抱きしめた。そして人魚姫に言った。
「ぼくは、このうえもなく幸せだよ!夢にも望めないぐらいだった願いが叶ったんだもの。きみは、ぼくの幸せを喜んでくれるよね。きみは、誰よりも深く、ぼくを好きでいてくれるんだから!」
人魚姫は王子の手にキスをした。彼女の胸ははりさけそうだった。
王子が結婚する。そして私は、その次の朝には、死んで海の泡になる・・・。
ありとあらゆる教会の鐘が鳴り響いた。
花嫁と花婿は、たがいに手を取り合い、僧正の祝福を受けた。
人魚姫は絹と金で着飾り、花嫁の衣装の長いすそを持っていた。
けれど彼女の耳には、祝いの音楽も言葉も聞こえなかった。厳かな儀式も見えなかった。
彼女はじっと考え続けていた。
自分の死の闇夜のことを。
自分がなくし、捨ててきてしまった、あらゆるもののことを。
その日の夕方、花嫁と花婿は船に乗り込んだ。
大砲がとどろき、たくさんの旗がひるがえった。
帆は風をうけていっぱいにふくらみ、澄みきった海の上を、すべるように進んでいった。
あたりが暗くなると、色とりどりのランプの火が灯された。
水夫たちは甲板で、ゆかいなダンスを踊った。
人魚姫は、自分がはじめて海の上に浮かびでて、船を見たときのことを思い出した。
あのときも、今と同じように華やかで、にぎやかで、楽しそうだった。
人魚姫は自分もダンスの中に入って一緒に踊った。
くるくると、軽やかに、ひらひらと、軽く身をひるがえして飛ぶように。
みんなは驚きと感嘆の声をあげた。
人魚姫にとっても、こんなに素晴らしく踊ったことはないほどだった。
人魚姫の足はまるで鋭いナイフに切られるようだったが、いまや彼女はその痛みを感じなかった。
それよりも、胸が痛んだ。
彼女にとって、これが最後の晩だった。
王子のために、自分はなにもかもを捨ててしまった。
家も、家族も、自分の美しい声も。
そしてそれからの、毎日の苦しみと幸福。
しかし王子と共に過ごすのも、王子と同じ空気を吸うのも、深い海や、星の瞬く美しい夜空を眺めるのも、この夜が最後だった。このあとには、夢さえも見ない、暗い永遠の夜がやってくる。
魂のない人魚にとって、それはまったくの無でしかない。
皆は楽しく歌い、さわぎ、人魚姫も楽しげに微笑んでいた。そして踊り続けた。
しかし彼女は、〈死〉を思い続けていた。
王子は美しい花嫁にキスをし、花嫁は王子の髪をなでた。
そして二人は、手を取り合い、部屋へと引き取っていった。
やがて宴は終わり、甲板はひっそりと静かになった。
人魚姫は船べりに座り、東の空をじっと見つめていた。
日が昇り、最初の光が自分を死なせることになると、彼女にはわかっていた。
すると、人魚姫のお姉さんたちが海の上に浮かび上がってくるのが見えた。
彼女たちも青ざめていた。
彼女たちの美しく長かった髪は、短くぷっつりと切れ、なくなっていた。
「魔女に、髪をあげてきたのよ。あなたを今夜死なせないために。魔女の助けを借りるために。魔女は、ナイフをくれたわ。これよ、ごらん!日が昇る前に、これを王子の心臓に突き刺すのよ。そして王子の温かい血があなたの足にかかると、足はくっついて一本の魚の尻尾になり、あなたはまた人魚に戻れる。
さあ、急いで!あなたか、王子か、どちらかが死ななきゃならないのよ!さあ、王子を殺して帰ってらっしゃい!ほら、空に赤いすじがさしてきたのが見える?さあ、急ぐのよ!」
人魚姫はナイフを手に取り、花嫁と花婿が眠る部屋へとそっと入った。
美しい花嫁が、王子の胸に頭をもたせかけて眠っているのが見えた。
人魚姫は身をかがめ、王子のその美しい額にキスをした。
・・・・・・
つづく。
次回、最終回。
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アンデルセン童話集 1 改版―完訳 (1) (文庫) アンデルセン童話集 2 改版―完訳 (2) (文庫) アンデルセン童話集 3 改版―完訳 (3) (文庫) | ||||||||||||||||||||||||
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「人魚姫」あらすじ(4)---------------
王子様のお城に着いた人魚姫は、魔女にもらった薬を飲んで、そのまま気を失った。
日が昇り、やがて人魚姫が目を覚ますと、そこには王子が立っていた。
王子はじっとこちらを見ている。
人魚姫がふっと目を下へそらすと、自分の魚の尻尾がなくなっていることに気づいた。
そこには人間の女の子の素敵な足があった。
「君は誰だい?なぜここにいるんだい?」と王子は彼女に聞いたが、人魚姫には言葉を話すことが出来かった。
それは人間の足をもらうかわりに、魔女に渡してしまった。
人魚姫は答えるかわりに、優しく、しかしとても悲しげに王子を見つめた。
王子は人魚姫を宮殿の中へ連れて行った。
魔女に言われたとおり、人魚姫は一足歩くごとに、まるで鋭いナイフを踏んで歩くような、激しい痛みを感じた。
でも人魚姫は、それを喜んで我慢した。
彼女の歩みはその痛みに反して、軽く、すべるようで、愛らしかった。その様子に、王子もほかの人々もすっかり驚いてしまった。
人魚姫は絹やモスリンで作った美しい服を着せてもらった。
彼女は誰よりもきれいだった。
しかし美しい着飾った女奴隷たちが王子の前に進み出て、王子や王子の両親の前で歌を歌い、王子がそれを手をたたいて喜んだ時、人魚姫は悲しい気持ちになった。
誰よりも美しい歌声を持っていたはずの彼女。それを、王子に会いたいばかりに捨ててきてしまったのだ。
彼女は音楽に合わせて軽やかに踊った。
それは美しく、軽やかに舞う、見事な踊りだった。
歌を歌うことは出来なかったが、彼女の踊りや彼女の目は、それ以上に深く、王子の心に語りかけた。
足は血が吹き出るように痛かった。しかし彼女は王子のために踊り続けた。
皆はうっとりとそれを眺め、とりわけ王子は感嘆し、喜んだ。
「ぼくのかわいい拾いっ子さん」と王子は人魚姫を呼んだ。
そして言った。「いつでも、ぼくのそばにいておくれ」
二人はいつも一緒に過ごすようになった。
馬に乗り、森や丘へ散策に出かけたりもするようになった。
高い山の峰まで登った。
眼下に見下ろす雲の波を、二人で眺めた。
人魚姫は幸せだった。
ある夜遅く、人魚姫が熱く痛む足をつめたい水で冷やしていると、人魚姫のお姉さんたちが浮かびあがってきた。
彼女たちは人魚姫のために、とても悲しげに歌を歌った。彼女たちも人魚姫も、お互いに気がついた。
「あなたのために、私たちがどんなに心配し、悲しんだことか!」
それから彼女たちは毎晩、人魚姫をたずねてくるようになった。
日ごとに、王子は人魚姫のことがどんどん好きになっていった。
王子は人魚姫を本当にかわいがった。
しかし、彼は人魚姫を自分の妃にしようなどとは夢にも考えていなかった。
「ぼくは、きみが一番好きだよ」と王子は人魚姫に言った。「きみは、誰よりも優しい心を持っている。君は、僕がまえに会った娘さんに似ているよ。ぼくの船が難破して、浜辺に打ち上げられたとき、ぼくを見つけて、ぼくの命を救ってくれた人だ。あの人こそ、ぼくがこの世で唯一愛することのできる人さ。きみは、その人によく似ている。でもその娘さんは、修道院に入っているんだ。だから、ぼくはその人と結婚することは出来ない。そのかわりに神様が、ぼくのところへ君をよこしてくれたんだと思う。だから、ねえ、ぼくたち、決して離れないでいよう」
(この方は、わたしが命を救ってあげたことを知らないんだわ!)人魚姫は悟った。
(わたしが王子様を助けて海を泳ぎ、あの修道院のあるところまで連れて行ったの。やがてあのきれいな娘さんがやってきて、わたしは海の泡のかげに隠れた。王子様は、あの娘が助けてくれたと思ってる)
(しかし修道院に入っているなら、娘は決して外の世界に出ることも、二度と王子様に会うこともないはずだわ。でもわたしは、毎日王子様に会える。わたしはこの方のお世話をしよう。この方を愛し、この方にわたしの命をささげよう!)
ところがしばらくたったある日、噂が流れてきた。
「王子様は、となりの国の王様の、美しいお姫様と結婚することになったそうだよ!」
つづく。
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アンデルセン童話集 1 改版―完訳 (1) (文庫) アンデルセン童話集 2 改版―完訳 (2) (文庫) アンデルセン童話集 3 改版―完訳 (3) (文庫) | ||||||||||||||||||||||||
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人魚姫は勇気を出して魔女の家に出かけていくことにした。
ごうごうと音を立てる大渦巻きのむこうに、魔女の家はある。
なにもかも深い海の底へと引きずり込み、なにもかもをつぶし、粉々に壊してしまう、渦の真ん中を、通っていかなければならないのだ。
そのむこうの不思議な森の中に、魔女の家はあった。
それは難破して死んだ人間の骨でできた、白い家だった。
ついに人魚姫はそこへ辿り着いた。
海の魔女は人魚姫にいった。
「バカだね、あんた。いいよ、願いを叶えてあげるよ。でもそれであんたは不幸せになるんだよ、きれいなお姫さん!」
そういって魔女は大声で笑った。
「じゃああんたに飲み薬を作ってあげよう。お日様がのぼらないうちに陸まで泳いでいって、その薬をお飲み。そうすればあんたの尻尾が割れて、人間のきれいな足になるよ。あんたを見た人間はみんな『こんなにきれいな娘は見たことがない!』というだろう。でもあんたは、一足歩くごとに、、まるで鋭いナイフを踏む様な、血の吹き出すような痛みを感じるんだよ。それを我慢する気があるかい?」
「ええ、我慢します!」と人魚姫は震える声でいった。彼女は王子のことを思い、死ぬことのない魂のことを思った。
「だけど覚えておきな。あんたはもう二度と人魚には戻れなくなるんだよ。それにもしあんたが、王子に愛されるようになって、王子があんたに永遠の愛を誓い、夫婦になることができなかったら、もし王子がほかの女と結婚することになったら、あんたはその次の朝、心臓が破裂し、海の泡になってしまうんだよ」
「それでもいいわ!」と人魚姫は言ったが、その顔は死人のように青ざめていた。
「だけどね、ただってわけにはいかないね。あんたは他の誰よりも美しい声を持ってる。きっとあんたはその声であの王子の心を惹きつけられると思ってるんだろう。でもその声を、あたしにくれなきゃいけないのさ」
「でも、あなたにわたしの声をあげてしまったら、私には何が残るでしょう?」
「あんたには、きれいな姿や、すべるように軽い歩き方や、物を言う目があるじゃないか。それだけあれば、人間の心をとろかすぐらい楽に出来るよ。おや、勇気がなくなったかい?さあ、その小さな舌をお出し!薬の代に、その舌を切り取ってやる。そのかわり、ききめの強い薬をあげるよ!」
「ええ、そうして!」と人魚姫は言った。
魔女は薬を作るために大鍋を火にかけた。
さまざまな怪しい材料の混合物。やがて薬は出来上がった。
魔女は人魚姫の舌を切り取った。
人魚姫は飲み薬をもらい、魔女の家をあとにした。
やがて父の城が見えた。舞踏室の明かりはもう消えていた。きっともうみんな寝てしまったんだろう。
どちらにしても、人魚姫はみんなに会う気にはなれなかった。
自分はもう口がきけなくなってしまったし、このまま誰とも会わず、永久にみんなとは別れるつもりだった。
人魚姫の胸は、悲しみで張り裂けそうだった。
そして人魚姫は、王子の住む城へと泳いでいった。
日が昇る前に、薬を飲まなければならない。
やがて宮殿についた人魚姫は、大理石の階段にのぼった。
人魚姫は、燃えるように熱いその薬を飲んだ。
まるで鋭い剣が身体を突き通すような激しい痛みが、人魚姫を貫いた。
人魚姫は気が遠くなり、そのままそこで気を失った。
太陽が海を明るく輝かせ始めた頃、人魚姫は目を覚ました。
身体に鋭い痛みを感じた。
ふと顔を上げると、そこにはあの美しい王子が立っていた。
つづく。
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「人魚姫」あらすじ(2)---------------
王子と似ている美しい大理石の少年の像を抱きしめ、叶わぬ辛い恋心を自らなぐさめる人魚姫。
そのうちとうとう人魚姫は我慢できなくなって、お姉さんのうちの一人に自分の気持ちを打ち明けた。
するとそれは、他のみんなにも知れ渡ってしまった。
お姉さんたちだけではなく、その女友達にまで知れ渡ってしまった。
人魚姫は愕然とするが、その友達のうちの一人が、あの王子のことを知っていた。
王子がどこの国の人で、どこに住んでいるか。
人魚姫はさっそくその宮殿へ出かけていった。それは円柱の柱や大理石の像ががいくつも立ち、噴水があり、透き通ったガラス越しに見える広間には大きい絵が何枚も飾ってある美しい建物だった。
人魚姫は夕方や夜になると、何度もそこへ出かけていくようになった。そして月の光を浴びてバルコニーに一人立つ王子をそっと眺めた。
彼女は思い出していた。
あの嵐の夜に、自分がどんなに心を込めて王子にキスをしたか。王子の頭がどんなにしっかりと自分の胸の上にもたれていたか。
やがて、人魚姫の人間の世界に対する憧れはますます強くなっていった。
人間の世界のほうが自分の住む世界よりもずっと広く、大きく見える。
森や野原は、人魚姫には信じられないぐらい遠くまで広がっている。
ある日人魚姫はおばあさんにたずねた。
「人間というのは、いつまで生きていられるのかしら?」
おばあさんは答えた。
「人間の一生は、わたしたちの一生より、もっと短いのよ。私たちはね、三百年は生きていられるの。でも人魚はここでの一生が終われば、ただの水の泡になってしまうしかない。私たちは死ぬことのない魂というのを持っていないんだよ。
ところが人間は、魂というのを持っている。その魂は、人間が死んでもいつまでも生き続けるんだよ。それは澄んだ空気の中をのぼり、きらきらと光る星のところまで上るのです。でも私たち人魚には魂がないから、そういうところは決して見ることが出来ないんだよ」
人魚姫は自分たちが死ぬことのない魂をもらうことが出来なかったこと対して、悲しく首を振った。
そして言った。
「わたしは、自分の生きていられる三百年をすっかりあげてしまってもいいから、そのかわり、ほんの一日でも人間になりたいわ」
「そんなこと考えるものじゃありません!」とおばあさんは怒った。「わたしたちは、人間たちより、ずっと幸せに、具合良く暮らしているんですよ!」
しかしその後でおばあさんは言った。
「ただ一つだけ。もしも人間の誰かが、あなたを本当に愛するようになったら、そしていつまでもあなたへの真心は変わらないと誓ってくれたら、そのときは、その人の魂があなたの身体に流れ込み、そうしてあなたのほうも、人間の幸せを分けてもらうことができるのです。その人はあなたに魂をくれるわけだけど、それでも、自分の魂はちゃんと持ち続けるんだよ。でもね、そんなことは決して起こりはしないよ!あなたのその魚の尻尾だって、人間たちはみっともないと思っているんだよ」
その晩は、人魚の城で華やかな舞踏会が開かれた。
多くの人魚たちが、歌を歌い、踊った。
人魚姫は、陸と海のもののうちで、もっとも美しい声を持っていた。そのことを人魚姫は嬉しく思った。
しかし人魚姫はあの美しい王子のことを思い出していた。
そして今日聞いたおばあさんの話を思い出していた。人魚には死ぬことのない魂がない、という話を。
それは人魚姫を辛く、悲しい気持ちにさせた。
人魚姫はそっと舞踏会から抜け出し、自分の小さな花壇へ行って坐り、そして思った。
(私はいつもあの人のことを思い続けている。あの人と幸せになるためなら、そしてあの人と一緒に、死ぬことのない魂を手にするためなら、どんなことだってするわ!
・・・そうだ、魔女のところへ行ってみよう。
今までおそろしくて行ったことはなかったけれど。
魔女ならなにか知恵を貸してくれるかも知れない。何か手助けをしてもらえるかも知れないわ!)
人魚姫は魔女の住む家へと出かけていった。
つづく。
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