May 23, 2006

アンデルセン童話「人魚姫」あらすじ連載(6)

「人魚姫」のあらすじ紹介、第6回目。
 最終回です。
 
※過去の記事 ↓

         「人魚姫」あらすじ連載(1)
         「人魚姫」あらすじ連載(2)
         「人魚姫」あらすじ連載(3)
         「人魚姫」あらすじ連載(4)
         「人魚姫」あらすじ連載(5)


「人魚姫」あらすじ(最終回)−−−−−−−−−−−−−−−


 人魚姫はお姉さんたちから渡されたナイフを手に取り、花嫁と花婿が眠る部屋へとそっと入っていった。
 自分か王子か、どちらかが死ななければならない。
 王子を殺せば、自分はもとの人魚に戻れる。
 夢は叶わなかったが、死なずにはすむ。

 部屋へ入ると、美しい花嫁が、王子の胸に頭をもたせかけて眠っているのが見えた。
 人魚姫は身をかがめ、王子のその美しい額にキスをした。
 空を見上げた。
 夜明け前の赤い光は、しだいに明るくなってくる。
 ナイフを見つめ、王子を見つめた。

 と、王子は夢を見ながら、花嫁の名を呼んだ。
 人魚姫の手の中で、ナイフがぴくっと震えた。

 次の瞬間、人魚姫はナイフを波の彼方へ投げ捨てた。
 波は赤く輝いて、血のしずくが水の中から泡立つように見えた。

 夜明けが近づき、人魚姫の身体はすでに死へと向かいつつあった。
 その目は半ばかすんでいた。
 彼女は王子を一度だけ見つめ、海の中へ飛び込んだ。
 自分の身体が溶けて、泡になっていくのがわかった。

 日が昇った。
 その光は冷たい海の泡を、おだやかに暖かく照らしていった。
 人魚姫は少しも死んだような気がしなかった。
 上のほうに、透き通った美しいものの粒たちが、何百となく漂っているのが見えた。
 あれはなんだろう?
 その向こうには、船の白い帆や、赤い雲が見える。
 彼女は美しい音楽に包まれていた。それは清らかな精神の調べのようなもので、誰の耳にも聞こえない音楽だった。
 透明で、美しく、ふわりと空気を漂うものたちが見える。
 いつしか人魚姫もその一部となり、泡から抜け出し、しだいに上へと昇っていった。
「わたしはどこへ行くの?」と人魚姫はいった。
「空気の娘たちのところよ」
と、漂うものたちの一人が答えた。
「人魚の娘も、私たち空気の娘も、死ぬことのない魂を持っていないわ。いつまでも続く魂をもつためには、何かほかのものの力に頼らなければならないの。でも、よい行いをしつづけると、魂を自分のものにできるの。私たちは、蒸し暑くて毒のある空気で人が死んでしまったような、暑い国に飛んでいって、そこで、涼しい風を吹かせて上げる。それに、花々の香りを空気の中に広がらせて、みんなの気分をさわやかにし、元気をつけてあげる。そうして良いことをし続けて、三百年たつと、わたしたちは、死ぬことのない魂をさずかって、人間の永遠の幸せを分けてもらえるの。

かわいそうな人魚姫。あなたは、わたしたちの目ざしていることと同じことをめざして、心をこめて努めてきたわね。あなたは苦しんだり、我慢したりし続けて、こうして、空気の精の世界まであがってきたのよ。そしてこれから、あなたが良い行いをしていけば、三百年たつと、あなたも、死ぬことのない魂をもらうことができるのよ」

 人魚姫は透き通った両腕を、神様のお日様のほうに高くさしあげた。
 その時、生まれてはじめて、涙があふれてくるのを感じた。

 船の上がまたさわがしくなった。
 王子が、花嫁と一緒に自分を探しているのが、人魚姫には見えた。
 二人は海に漂う泡を悲しげに見つめていた。人魚姫が波の中に身を投げたのを知っているようだった。

 空気になった人魚姫は、花嫁のひたいにキスし、王子に微笑みかけた。
 そして彼女は、ほかの空気の子たちと一緒に、バラ色の雲のほうへと昇っていった。

「三百年たったら、わたしたちこんな風に、神様の国へと昇っていけるのね!」
「もっと早くそこに行けるかもしれませんよ」空気の精の一人が言った。
「わたしたちは、人の目には見られずに、子供のいる人間の家の中にすっと入っていくんです。そして親たちを喜ばせ、親たちにかわいがられるだけの値打ちがある、良い子をひとり見つけると、その一日ごとに、必ず神様は私たちが魂を得るまでの日を短くしてくださるのです。わたしたちが嬉しさのあまり、思わずその子に微笑みかけると、そのたびに、三百年から一年、減らしてもらえます。けれど、行儀の良くない、悪い子をみると、思わず悲しくなって、涙を流さずにはいられません。そうすると、涙が一滴こぼれるごとに、魂をもらえるときが、一日ずつ、増えていくのですよ」

                        おわり。

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(「人魚姫」の紹介を終えて)
 いかがでしたか?
 あらすじ紹介ということで初めてみたものの、ずいぶん長い紹介になってしまいました。
 楽しんでいただけたとしたら、紹介させていただいた僕としても幸いです。

 底本には、何冊かの古い翻訳本を参考にしています。現代版のものもいくつか参考にしました。
 どれも原作は一つですから書かれていることの内容は変わりありませんが、僕なりに骨子を抜き出して細かな部分は割愛した点や、僕なりの文体で、多少の脚色も交えながら紹介させてもらいましたので、皆さんがよく知っている「人魚姫」とは若干雰囲気が違っていたのではないかと思います。しかし原作の良さや本質そのものは損なっていないつもりです。

 子供向けの、簡略化された絵本とは別に、実際のアンデルセンの原作の翻訳を読んでみると、とても子供のためのお話とは思えない、むしろ大人向けのお話の方が多いんじゃないかと、感じられました。
 この「人魚姫」もそうでした。
 ここには彼女の憧れや恋の切なさ、喜びや悲しみ、生と死、信仰、そういった生きることの本質的な、重要な要素が、一つの物語として描かれています。
 そしてそれは、子供よりはむしろ、すでにさまざまな人生の過程を経験してきた大人、かなわなかった辛い恋愛体験を知っている大人にこそ、強く訴えかけてくるものであり、共感と深い味わいを残すものだろうと思います。

 ぼくは今回の「人魚姫」をきっかけに、他にもいくつかのアンデルセンの物語を読んでみましたが、どれも、心に直接響いてくるいいお話でした。
 今この歳になって、アンデルセンの原作を読み返してみるというのは、新たな素晴らしい経験だったし、とても貴重な体験でした。たまたま図書館で手に取った本がこんなに大きな感動をもたらしてくれるなんて、なんだかとても得した気分です。

 アンデルセン ハンス・クリスチャンは、1805年4月2日に生まれ、1875年8月4日に亡くなりました。デンマークの文学者です。
 後日談によれば、この「人魚姫」は、アンデルセン自身の失恋が織り込まれていると言われ、人魚姫はアンデルセン自身の自画像だとも言われています。
 彼が好きだった女性との恋は報われず、彼は一生を独身ですごした、ということです。

 ほかにも良いものがたくさんありますので、これからもこのブログ上で、いくつかは紹介していきたいな、と思っています。
 著作権の問題については、アンデルセンが亡くなってすでに約130年がたっていますし、古い版では、翻訳された方もすでに死後50年を経ていますので、問題はないでしょう。
 それらを参考にしながら、次回の作品ついては、より僕なりの解釈と文体に置き換えて、ご紹介していきたいと思います。
 「青空文庫」とはまた一つ違った試みとして、僕自身も楽しんで紹介していきたいと思います。

 よろしかったら、またおつきあい下さい。


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■ アンデルセン童話

あなたの知らないアンデルセン「人魚姫」


少女が恋に目覚め、情熱の赴くままに生き、命を賭けて本当の「愛」に気づいていく…。アンデルセン童話に秘められた愛とエロス。美しい童話ではなく、一女性の魂の成長の物語として捉えた「人魚姫」。デンマーク語からの新訳。

雪の女王 


雪の女王にさらわれた仲よしのカイを追って、ゲルダは山ぞくにとらわれ、雪あらしとたたかい、ついに北の果てにある女王の氷の城へたどりつく。アンデルセン童話の集大成といわれる名作の完訳版。

アンデルセン童話集 (単行本)


荒俣宏の新訳に、アイルランドの幻想派挿絵画家ハリー・クラークのカラー挿絵が悲哀と残酷を感動に変える。アンデルセン生誕200年に贈る極めつけの一冊。

アンデルセン童話集 1 改版―完訳 (1) (文庫)
アンデルセン童話集 2 改版―完訳 (2) (文庫)
アンデルセン童話集 3 改版―完訳 (3) (文庫)


 



jailz at 18:32│Comments(0)TrackBack(0) 

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