May 18, 2006

アンデルセン童話「人魚姫」あらすじ連載(5)

 「人魚姫」のあらすじ紹介、第5回目です。
 さあ、いよいよ物語は佳境に入ってきます。
 全6回の、第5回目。


 「人魚姫」あらすじ(5)−−−−−−−−−−−−−−−

「王子様は、となりの国の王様の、美しいお姫様と結婚することになったそうだよ!」
 その噂が、王国中に知れ渡った。

「ぼくは旅に出なきゃならない」と王子は人魚姫に話した。
「となりの国の、美しいお姫さまに会わなくちゃならない。ぼくの両親が、そう望んでるからね。でも、ぼくがそのお姫さまを愛することなんて、ありっこないよ!だってその人は、あの修道院の娘さんじゃない。・・・もしぼくが、いつか花嫁を選ばなければならなくなったら、そのときは、いっそ、きみを選ぶよ」
 そう言うと、王子は人魚姫の唇にキスし、彼女の長い髪をなで、彼女の胸に自分の頭をもたせかけた。
 王子にそうされながら、彼女の胸は熱く高鳴った。彼への思いでいっぱいだった。
 人魚姫は王子との幸せを思い、死ぬことのない魂を思った。

 人魚姫も、王子の旅の船に同行することになった。
 航海の途中、ある月の明るい夜、みんなが寝静まった後、人魚姫が船べりに坐って、澄みきった海の水の奥をじっと見つめていると、人魚姫のお姉さんたちが海の上へ浮かび上がってきた。そしてとても悲しそうな目で妹を見つめた。
 人魚姫は、お姉さんたちに手を振った。微笑みかけ、自分のほうは何もかもうまくいっていて幸せです、と話そうとした。でもそう伝えることは出来なかった。
 やがて船のボーイが人魚姫のほうに近づいてきて、お姉さんたちは海の底へと帰っていった。

 翌朝、船は着いた。
 パーティが開かれ、お姫様が現れた。
 「ああ、あなたです!」と王子は彼女を見て言った。
 「ぼくが海岸に倒れていたとき、ぼくを救ってくれたのは、あなたです!」
 彼女は修道院に一生を捧げた娘だったわけではなく、王女にふさわしい教育を受けるため、一時的に修道院に入っていただけだったということがわかった。
 王子は、顔を赤くしている王女を、腕に抱きしめた。そして人魚姫に言った。
「ぼくは、このうえもなく幸せだよ!夢にも望めないぐらいだった願いが叶ったんだもの。きみは、ぼくの幸せを喜んでくれるよね。きみは、誰よりも深く、ぼくを好きでいてくれるんだから!」

 人魚姫は王子の手にキスをした。彼女の胸ははりさけそうだった。
 王子が結婚する。そして私は、その次の朝には、死んで海の泡になる・・・。

 ありとあらゆる教会の鐘が鳴り響いた。
 花嫁と花婿は、たがいに手を取り合い、僧正の祝福を受けた。
 人魚姫は絹と金で着飾り、花嫁の衣装の長いすそを持っていた。
 けれど彼女の耳には、祝いの音楽も言葉も聞こえなかった。厳かな儀式も見えなかった。
 彼女はじっと考え続けていた。
 自分の死の闇夜のことを。
 自分がなくし、捨ててきてしまった、あらゆるもののことを。

 その日の夕方、花嫁と花婿は船に乗り込んだ。
 大砲がとどろき、たくさんの旗がひるがえった。
 帆は風をうけていっぱいにふくらみ、澄みきった海の上を、すべるように進んでいった。

 あたりが暗くなると、色とりどりのランプの火が灯された。
 水夫たちは甲板で、ゆかいなダンスを踊った。
 人魚姫は、自分がはじめて海の上に浮かびでて、船を見たときのことを思い出した。
 あのときも、今と同じように華やかで、にぎやかで、楽しそうだった。
 
 人魚姫は自分もダンスの中に入って一緒に踊った。
 くるくると、軽やかに、ひらひらと、軽く身をひるがえして飛ぶように。
 みんなは驚きと感嘆の声をあげた。
 人魚姫にとっても、こんなに素晴らしく踊ったことはないほどだった。
 人魚姫の足はまるで鋭いナイフに切られるようだったが、いまや彼女はその痛みを感じなかった。
 それよりも、胸が痛んだ。
 彼女にとって、これが最後の晩だった。
 王子のために、自分はなにもかもを捨ててしまった。
 家も、家族も、自分の美しい声も。
 そしてそれからの、毎日の苦しみと幸福。
 
 しかし王子と共に過ごすのも、王子と同じ空気を吸うのも、深い海や、星の瞬く美しい夜空を眺めるのも、この夜が最後だった。このあとには、夢さえも見ない、暗い永遠の夜がやってくる。
 魂のない人魚にとって、それはまったくの無でしかない。

 皆は楽しく歌い、さわぎ、人魚姫も楽しげに微笑んでいた。そして踊り続けた。
 しかし彼女は、〈死〉を思い続けていた。
 王子は美しい花嫁にキスをし、花嫁は王子の髪をなでた。
 そして二人は、手を取り合い、部屋へと引き取っていった。

 やがて宴は終わり、甲板はひっそりと静かになった。
 人魚姫は船べりに座り、東の空をじっと見つめていた。
 日が昇り、最初の光が自分を死なせることになると、彼女にはわかっていた。
 すると、人魚姫のお姉さんたちが海の上に浮かび上がってくるのが見えた。
 彼女たちも青ざめていた。
 彼女たちの美しく長かった髪は、短くぷっつりと切れ、なくなっていた。

「魔女に、髪をあげてきたのよ。あなたを今夜死なせないために。魔女の助けを借りるために。魔女は、ナイフをくれたわ。これよ、ごらん!日が昇る前に、これを王子の心臓に突き刺すのよ。そして王子の温かい血があなたの足にかかると、足はくっついて一本の魚の尻尾になり、あなたはまた人魚に戻れる。
さあ、急いで!あなたか、王子か、どちらかが死ななきゃならないのよ!さあ、王子を殺して帰ってらっしゃい!ほら、空に赤いすじがさしてきたのが見える?さあ、急ぐのよ!」

 人魚姫はナイフを手に取り、花嫁と花婿が眠る部屋へとそっと入った。
 美しい花嫁が、王子の胸に頭をもたせかけて眠っているのが見えた。
 人魚姫は身をかがめ、王子のその美しい額にキスをした。

 ・・・・・・

                         つづく。
                          次回、最終回。

人気blogランキング。よろしかったら、クリックをお願いします。



ヒデのホームページ「快適書斎スタイル」もよろしく。

■ アンデルセン童話

あなたの知らないアンデルセン「人魚姫」


少女が恋に目覚め、情熱の赴くままに生き、命を賭けて本当の「愛」に気づいていく…。アンデルセン童話に秘められた愛とエロス。美しい童話ではなく、一女性の魂の成長の物語として捉えた「人魚姫」。デンマーク語からの新訳。

雪の女王 


雪の女王にさらわれた仲よしのカイを追って、ゲルダは山ぞくにとらわれ、雪あらしとたたかい、ついに北の果てにある女王の氷の城へたどりつく。アンデルセン童話の集大成といわれる名作の完訳版。

アンデルセン童話集 (単行本)


荒俣宏の新訳に、アイルランドの幻想派挿絵画家ハリー・クラークのカラー挿絵が悲哀と残酷を感動に変える。アンデルセン生誕200年に贈る極めつけの一冊。

アンデルセン童話集 1 改版―完訳 (1) (文庫)
アンデルセン童話集 2 改版―完訳 (2) (文庫)
アンデルセン童話集 3 改版―完訳 (3) (文庫)



jailz at 21:17│Comments(0)TrackBack(0) 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔