May 10, 2006

アンデルセン童話「人魚姫」あらすじ連載(3)

 「人魚姫」のあらすじ紹介、3回目です。

 このお話をよく知っている方には今さらという感じですが、このお話の面白さのポイントの第一は、「永遠の憧れ」です。
 ぼくは読んでいてそれを強く感じました。海の底しか知らない人魚姫の、自分が知らない地上の世界への憧れ。美しい王子への憧れ。恋。
 これはひっくるめて激しい恋愛のような物語ということも出来るし、未知の美と愛に対する渇望、憧憬の物語だともいえます。彼女の情熱と、純粋さ、一途さに、心を打たれます。

 そしてこの物語を面白く、のっぴきならないものにさせているのは、常に彼女が人生究極の選択を迫られ、そこに立ち向かい、決意していくところです。
 彼女の決意が、ドラマを展開させます。次の決意が、また次のドラマを。
 そして、何かを得る時には、何かを失わなければならない、という人生の一つの真理が、このドラマの中ではとくに重要な意味を持っています。
 

「人魚姫」あらすじ(3)−−−−−−−−−−−−−−−

 人魚姫は勇気を出して魔女の家に出かけていくことにした。
 ごうごうと音を立てる大渦巻きのむこうに、魔女の家はある。
 なにもかも深い海の底へと引きずり込み、なにもかもをつぶし、粉々に壊してしまう、渦の真ん中を、通っていかなければならないのだ。
 そのむこうの不思議な森の中に、魔女の家はあった。

 それは難破して死んだ人間の骨でできた、白い家だった。
 ついに人魚姫はそこへ辿り着いた。

 海の魔女は人魚姫にいった。
「バカだね、あんた。いいよ、願いを叶えてあげるよ。でもそれであんたは不幸せになるんだよ、きれいなお姫さん!」
そういって魔女は大声で笑った。
「じゃああんたに飲み薬を作ってあげよう。お日様がのぼらないうちに陸まで泳いでいって、その薬をお飲み。そうすればあんたの尻尾が割れて、人間のきれいな足になるよ。あんたを見た人間はみんな『こんなにきれいな娘は見たことがない!』というだろう。でもあんたは、一足歩くごとに、、まるで鋭いナイフを踏む様な、血の吹き出すような痛みを感じるんだよ。それを我慢する気があるかい?」
「ええ、我慢します!」と人魚姫は震える声でいった。彼女は王子のことを思い、死ぬことのない魂のことを思った。

「だけど覚えておきな。あんたはもう二度と人魚には戻れなくなるんだよ。それにもしあんたが、王子に愛されるようになって、王子があんたに永遠の愛を誓い、夫婦になることができなかったら、もし王子がほかの女と結婚することになったら、あんたはその次の朝、心臓が破裂し、海の泡になってしまうんだよ」
「それでもいいわ!」と人魚姫は言ったが、その顔は死人のように青ざめていた。
「だけどね、ただってわけにはいかないね。あんたは他の誰よりも美しい声を持ってる。きっとあんたはその声であの王子の心を惹きつけられると思ってるんだろう。でもその声を、あたしにくれなきゃいけないのさ」
「でも、あなたにわたしの声をあげてしまったら、私には何が残るでしょう?」
「あんたには、きれいな姿や、すべるように軽い歩き方や、物を言う目があるじゃないか。それだけあれば、人間の心をとろかすぐらい楽に出来るよ。おや、勇気がなくなったかい?さあ、その小さな舌をお出し!薬の代に、その舌を切り取ってやる。そのかわり、ききめの強い薬をあげるよ!」
「ええ、そうして!」と人魚姫は言った。

 魔女は薬を作るために大鍋を火にかけた。
 さまざまな怪しい材料の混合物。やがて薬は出来上がった。
 魔女は人魚姫の舌を切り取った。
 人魚姫は飲み薬をもらい、魔女の家をあとにした。

 やがて父の城が見えた。舞踏室の明かりはもう消えていた。きっともうみんな寝てしまったんだろう。
 どちらにしても、人魚姫はみんなに会う気にはなれなかった。
 自分はもう口がきけなくなってしまったし、このまま誰とも会わず、永久にみんなとは別れるつもりだった。
 人魚姫の胸は、悲しみで張り裂けそうだった。
 そして人魚姫は、王子の住む城へと泳いでいった。

 日が昇る前に、薬を飲まなければならない。
 やがて宮殿についた人魚姫は、大理石の階段にのぼった。
 人魚姫は、燃えるように熱いその薬を飲んだ。
 まるで鋭い剣が身体を突き通すような激しい痛みが、人魚姫を貫いた。
 人魚姫は気が遠くなり、そのままそこで気を失った。

 太陽が海を明るく輝かせ始めた頃、人魚姫は目を覚ました。
 身体に鋭い痛みを感じた。
 ふと顔を上げると、そこにはあの美しい王子が立っていた。


                         つづく。

人気blogランキング。よろしかったら、クリックをお願いします。


ヒデのホームページ「快適書斎スタイル」もよろしく。

■ アンデルセン童話

あなたの知らないアンデルセン「人魚姫」


少女が恋に目覚め、情熱の赴くままに生き、命を賭けて本当の「愛」に気づいていく…。アンデルセン童話に秘められた愛とエロス。美しい童話ではなく、一女性の魂の成長の物語として捉えた「人魚姫」。デンマーク語からの新訳。

雪の女王 


雪の女王にさらわれた仲よしのカイを追って、ゲルダは山ぞくにとらわれ、雪あらしとたたかい、ついに北の果てにある女王の氷の城へたどりつく。アンデルセン童話の集大成といわれる名作の完訳版。

アンデルセン童話集 (単行本)


荒俣宏の新訳に、アイルランドの幻想派挿絵画家ハリー・クラークのカラー挿絵が悲哀と残酷を感動に変える。アンデルセン生誕200年に贈る極めつけの一冊。

アンデルセン童話集 1 改版―完訳 (1) (文庫)
アンデルセン童話集 2 改版―完訳 (2) (文庫)
アンデルセン童話集 3 改版―完訳 (3) (文庫)



jailz at 21:48│Comments(0)TrackBack(0) 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔