February 11, 2006

ミュージカル「不思議の国のアリス」

不思議の国のアリス ルイス・キャロルの不朽のファンタジー「不思議の国のアリス」のミュージカル化。
 長野県駒ヶ根市(とその周辺市町村)のアマチュアと、東京のプロ劇団「昴」との共同公演で、今回で11回目。
 僕もキャストとして、第2回目の「夏の夜の夢」、第3回目「青い鳥」、第4回目「クリスマス・キャロル」と、計3回出演した。
 それ以後はまったくの観客として遠くから眺めているが、役者やスタッフとしてずっと参加し続けている仲間もいるし、知り合いも多いし、自分が参加しないまでも毎年楽しみにしている公演である。

 しかし「夏夜」からもう10年目かと思うと、本当に感慨深いものがある。
 僕にとっての演劇は、結局すべてはこの「共同公演」から始まったのだから。

 今回の舞台のについて率直な感想を言うと、導入部がちょっともたもたしすぎたのではないか、というのがまず一番に感じたことだった。
 そして全体を通してやはり一番の問題は、導入部、序盤から中盤(の後半)までの弱さであるように思う。
 物語のおおよそのアウトラインは知ってはいても、今何が行われているか、何が行われようとしているか、観客として物語へと入っていきづらい。またそのため、序盤から随所に挿入されるそれぞれの歌も、ミュージカルならではの効果を今一歩発揮しきれていない、という感じがした。

 もともとルイス・キャロルの「アリス」の真髄は、自由な空想や連想、その荒唐無稽さ、言葉遊びの面白さ、語呂合わせ、の中にあり、一言で言えばそれは「ナンセンス」の魅力だが、そこに今回の作品の根本的な難しさがあったのだろうと思う。
 ナンセンスを舞台にするということが、いかに難しいことであるか、それを今回見ていて改めて感じさせられた。

 物語自体がナンセンスである以上、そこに通常のドラマのような物語性や意味や感動を要求すること自体がナンセンスである、ということになる。
 ドラマの中では時折、なかなか思わせぶりな、一種哲学的な言葉や問いかけが発せられたりもするが、それ自体はドラマをうまくつないでいく役目を果たすことは出来ない。それはこの「アリス」の目指すところではないし、主眼とするところではないのである。
 大切なのは、「メッセージ」ではない。たしかにそういうものも含まれてはいるかも知れないが、それが目的ではなく、また作品の拠り所となるようなものでもない。メッセージに固執すると、肝心の中身が失われてしまう。
 それがこの作品の難しさであり、そういう部分にドラマの展開や、意味や、結末の感動を頼ろうとすると、たちまち自己矛盾に陥ってしまうというジレンマがある。

 今まで共同公演で上演してきた、いわゆる通常の「ドラマ」として真面目に考えようとすればするほど、深い底なし穴に落ち込んでいくような難しい構造を、このアリスは持っているのだと思う。
 役者を始め、今回の作品にかかわった人たちが頭を痛め、悩んだことの多くの部分は、根本的にはその1点に集約されているのではないか、という気がする。そして一度悩み始めてしまった真面目な役者にとっては、まさしく出口のない辛い稽古期間が続いたのではないか、と僕は想像する。
 「俺はいったい、このシーンでどうあるべきなんだ?」「俺はこんな感じで本当にいいんだろうか?」と。

 しかしこの作品においては、ようするに普通ありえない不思議なシチュエーションやその展開の中で、それをいかに楽しむかということだけが、今回役者にできる唯一のことであっただろうと思う。
 結局、いろいろと難しく考えても仕方がないのである。あとはそれを演出家がどう整理するか、である。
 今回劇作家や演出家にとっては、その荒唐無稽さをいかに一つのまとまりある物語として提出できるか、原作本来が持つ魅力を損なわず、その上で自分の狙う統一的なカラーを添えることが出来るか、という点に尽きてくる。
 結果的に、今回の舞台の後半に至るまでの弱さは、主には脚本の弱さに負うところが大きく、また全体的には演出上の狙いがうまくまとめきれなかったのではないか、というのが僕の感想である。
 ただ終盤、アリスが世界の果てへとたどりつき、自分の名前を思い出そうとするくだりあたりから結末に至るまでは、さすがにうまくまとまっていたと思う。そのため、後味としてはそれほど悪くはなかった。

 全体を通して、これまでの10本の作品と比べても、決して完成度の高い作品とは言えなかったと僕個人的には思うが、苦心の跡が伺えるし、こういう作品にチャレンジするという冒険も、それはそれで悪くはないとは思う。
 ストーリー上の難点を除けば、もちろん見るべきところもたくさんあったし、それぞれの役者ががんばっている姿には、やはり感動した。音楽も、美術も、照明も素晴らしかった。
 11年目の共同公演は、今までとは少し違う、新しい境地を開拓しようとしているように感じられた。

 当面僕自身は再び参加するような予定も気持ちもとりあえずないが、これからもっともっと、よりクオリティの高い作品目指して頑張っていって欲しい。
 そして「共同公演」という企画ならではの、他の劇団やプロダクションには決して真似の出来ない熱い感動を、発信しつづけて欲しいと思う。


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jailz at 21:59│Comments(2)TrackBack(0)演劇 

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この記事へのコメント

1. Posted by みどり   February 13, 2006 20:00
見に来てくださってありがとうございました。
役者でないにもかかわらず、私自身かなり悩みながらの稽古でしたが、ヒデちゃんの屈託のない感想を読んで、答えの一つを見た気がします。
もうすこし、当分、悩みます。
不思議の国から抜け出せないみどりでした。
2. Posted by ヒデちゃん   February 14, 2006 21:13
公演お疲れさん。
一観客として勝手なことを書いたけど、あんな風に熱心に公演に関わり続けることの出来る仲間たちが、うらやましくもありました。
まああまり深く悩まず、次回もがんばって。
その前に、芝居の会、かな?
みどりさんの存在はいろんな面で貴重だと思うので、今後の動向がちょっと気になります。

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