September 01, 2005

「悲しい本」

 久しぶりに本の紹介。
 原題は「sad book」。
 文字通りのタイトルの絵本である。
 「悲しい本」。
 
 ぶらっと本屋に入ったら、この本が新刊コーナーに平積みにされていて、興味を惹かれて手に取ってみた。
 まずタイトルが目を惹くし、装丁も美しく、イラストも独特の雰囲気とセンスがありとても良い。

 この本には、息子を失って悲嘆に暮れる男が登場する。
 その悲しみ方の描写が、とても客観的でシンプルなのだけれど、それだけに、読者に自分自身のこれまでの悲しみを想起させ、共感させる力を持っている。
 物語が進むにつれて、息子を失ったという決定的な悲劇的事実とは別に、そうではない、個人をふいに襲うあらゆる悲しみついて書かれる。

 人は時に、特に理由なんかなくても、悲しみにとりつかれてしまう。
 何があったというわけでもなく、何もかもが悲しく思える時というのがある。
 それは誰にでもあることだし、一度その深みにはまりこんでしまうと、なかなかそこから這い上がれなくなってしまう。

 物語の最後に訪れる、作者が描く悲しみからの脱出法・・というよりは、悲しみをいかにやり過ごすかという方法は、ささやかだが感動的で、人が何によって癒されるかという、当たり前で平凡だけれど、暖かで確かな手応えがある。
 
 この本を読むと、悲しみを共有する誰かがいるということ、それ自体が、人を癒す力そのものなのかも知れないなと思う。
 悲しい、という感情は、そもそも人間が内包している、逃れがたい宿命的なものだ。
 たとえ息子を失わなくても、あるいは妻や友人や、飼っている猫を失わなくても、人間とは本質的に、悲しみ続けていく存在である。
 誰でも結局のところ、常に何かを失い続けていく。
 だからこそそれを共有する誰かが必要であり、この本に書かれているような、自分にとってのささやかな、癒しの瞬間が必要になる。

 絵本だし、文章も短くてさらっと読めてしまうのだけれど、とても味わい深くて、心に染み入る本だ。
 何度も読み返したくなる。
 自分が悲しみに落ち込んでしまった時、ふっとその重荷を軽くしてくれるような、そんな力を持った本です。

 ぜひご一読を。

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悲しい本

2005年 第52回 産経児童出版文化賞・美術賞受賞
Mローゼン作/Q.ブレイク絵/谷川俊太郎訳 
定価1,470円 (本体1,400円+税)

 愛する者の死がもたらす悲しみを、徹底して見つめる中から浮かびあがる、命あるものへの慈しみと、深い慰めを描いた感動の絵本。
 イギリス、アメリカ、オーストラリア、フランス、オランダ、ポーランド、日本、韓国、台湾の世界9ヶ国で発売!!



jailz at 09:01│Comments(0)TrackBack(0) 

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