May 02, 2005

ヒデのおすすめ恋愛映画(1)「髪結いの亭主」

髪結いの亭主01製作年 : 1990年
製作国 : フランス
公開時のコピー : 「かほりたつ、官能」
〈キャスト〉
ジャン・ロシュフォール
アンナ・ガリエナ
ロラン・ベルタン
フィリップ・クレヴノ モルヴォワシュー
ジャック・マトゥ
ヘンリー・ホッキング
ティッキー・オルガド
アンヌ=マリー・ピザニ
髪結いの亭主02(あらすじ)
 女の理容師と結婚したいという願望を持ち続けてきたアントワーヌ。
 少年の頃、将来の夢は?と両親に尋ねられたアントワーヌは、「髪結いの亭主になる」と宣言し、驚いた父親にぶん殴られる。
 しかし彼の決意は固い。中年になり、彼はついにその夢を実現する。
 妻のマチルドは優しく綺麗で、アントワーヌは念髪結いの亭主03願の妻を娶った事に満足し、幸せな日々を送る。
 そして10年、この愛は何事もなく平穏に過ぎてゆくが……。
 主人公ジャン・ロシュフォールの個性的な魅力、美しく妖艶な魅力溢れるアンナ・ガリエナ。
 公開当時、日本でも大ヒットした作品。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 この映画を初めて観たのはもう十年以上も昔のことだ。
 はじめて観たときにも「ああ、いい映画だな」と思った。
 ストーリー的にはなんということのない話だし、人によっては、いまいちよく意味がわからないとか、ただ単に変わった男の話じゃないかとか、エッチなだけじゃないかとか、あるいは物静かすぎて、ちょっと物足りないと感じるかも知れない。
髪結いの亭主05 しかし僕はこの映画が大好きで、何度観ても面白いなあと思う。
 不思議に深い味わいと余韻、そして重い切なさが、人生における一つの真理の断片として、いつまでも胸に刺さり続ける、そんな映画である。
 今回久しぶりにレンタルで観たのだが、僕の中でその名作ぶりはいささかも衰えることがなかった。
 むしろはじめて観た二十歳の頃よりも、いっそう切実に胸に響いてくるものがある。
 数ある恋愛映画のなかでも、これは最高の部類に属するのではないだろうか。

 髪結いの亭主06少年時代の主人公アントワーヌに、父はこう語る。
 「人生は単純だ。物でも人でも、ただ強く望めば手に入るもんだ。失敗するのは、望み方が弱いからだ」
 彼が中年を過ぎて出会い、そして結婚することになるマチルダ。
 彼が夢見た”女の理容師”だ。しかも若く、とびきりの美人である。
 夢は叶ったのだ。
 二人のささやかな結婚式のあと、アントワーヌのモノローグが入るが、それはこの映画のテーマそのものを簡潔にあらわしている。

髪結いの亭主07「皆が帰り、扉が閉まればすべては−−永遠に私たちのためにあるのだ。店が私たちの世界。固い絆に結ばれた−−二人に不仲の種など無縁なのだ。幸せになるとわかっていた。永遠に」
 二人だけの閉じた世界。
 そこで交わされる恋の情熱は、純粋で、信じがたいほどの喜びと至福に満ち、同時に神経症的である。
 彼女が彼に望むのは100%完璧な、永遠に変わることのない愛である。彼にとってもそれはのぞむところで、永遠に彼女を手放すまいと思う。
 彼らの愛の世界の中では、文字通り彼ら二人しか存在しない。その他の人間などまったく必要としていないのである。
 そして彼女もまた、一貫して変わることを拒み、恐れている。成長すること、大人になること、年をとること、二人の間に今あるものが失われることを、痛々しいまでに恐れる。

 彼女の過去については、映画の中ではほとんど語られない。
 わかるのは、彼女には家族がいないこと、そしておそらくは、あまり幸福な少女時代を送らなかったであろうということだけである。
髪結いの亭主04 彼女は言う。
「ねえ、ひとつだけ約束してちょうだい。愛しているふりだけは、絶対にしないで」
 しかしもちろん、永遠に続くものなど何もない。人は、いつまでも激しい恋の炎を燃やし続けているわけにはいかないのである。
 人は老いるものであり、いつか死ぬ存在である。恋はいつか、相手を求める熾烈なエネルギーを離れ、その代わりに、穏やかで優しい愛情に変わっていく。すべては変わり、移ろっていくのだ。
 常連客の一人が言う。「死は夕立のように突然訪れるものだ」
 その言葉どおり、彼女はある日雨の中を一人飛び出し、自ら死を選ぶ。
 二人の愛を、永遠のものにするために。
 そうする以外には、ほかに方法がないからである。
 マチルダが死んだ後、アントワーヌ宛に遺された彼女の遺書。
 それはおそらくこの世でもっとも悲しく、切実な恋に満ちたラブレターであり、その心からの痛切な叫びは、狂おしく、重く、切ない。
 これほどまでに誰かを恋うということ、恋われるということ、そして生きるということの本質的な哀しみが、そこにはある。

 「あなた あなたが死んだり 私に飽きる前に死ぬわ
 優しさだけが残っても それでは満足できない
 不幸より死を選ぶの 抱擁の温もりやあなたの香りや眼差し・・・キスを胸に死にます
 あなたがくれた幸せな日々と共に 死んで行きます
 息が止まるほど長いキスを贈るわ 
 愛してたの あなただけを
 永遠に忘れないで         マチルド」
 
 
髪結いの亭主08 こういう個人的で内面的なストーリーを映画として成立させるのは、−−しかもそれで観る者を心の底から感動させるのは、かなり高度なテクニックが必要とされると思う。しかし伏線の張り方、また演出的な”しかけ”の置き方が非常にうまいので、物語が終盤にさしかかるにつれて、それまでのさりげない、なんということのないジャブが、じわじわと、絶妙にきいてくる。
 僕が最初にうまいなと思ったのは、毛糸のパンツの使い方だが、アンナ・ガリエナ自身の体型の極端な細さと美しさも、この物語のテーマである”永遠性”を暗示するのに大きな役割を担っているのではないかと思う。
 冒頭に登場する肉感たっぷりの理髪店の女に対して、マチルダのその線の細さと美しさは、なにか現実ではないもの、幻想的な何かを思わせる。永久に変わることのないものへの憧れと夢、決して手の届くことのない幻。
 またこの映画のもっとも特徴的で魅力的シーンであるアントワーヌの奇妙な踊りも、彼自身の内面的屈折、現実からの乖離をよくあらわしていて、終盤、オーデコロンのカクテルを二人で笑い転げながら飲むシーンと絶妙にだぶるものがある。
 そのようにして、彼らは束の間の、永遠の世界へと逃避しようとしているのである。
髪結いの亭主09 たしかに神経症的で、尋常な精神状態ではないとも言える二人の恋だが、そのように不器用にしか生きられなかった二人の純粋さに胸が痛む。どこにでもありそうな恋や出会いというのとは完全に壁一枚隔てているわけだけれど、二人の心情やその切迫さには、共感できる。
 こういう映画を観ていると、一般的な人たち(僕も含めて)は、本当の”恋の激しさ”なんて実は結局求めていないんじゃないかと思えてくる。
 今さらだけれど、そもそも恋とは根本的に、苦しく、切なく、危険なものなのだ。そこには、その恋の大きさに見合うだけの、代価が要求される。
 どんな恋にも必ず終わりがあるものであり、それを失うまいと必死に手を伸ばす時、情熱と挫折が訪れる。
 そして恋にとことん誠実になろうとすれば、それこそ命まで落としかねないものなのである。
 


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1. 橋の上の娘  [ かずろぐ ]   May 03, 2005 03:21
いろんな恋愛の形もあるもんだと思わされた一作です。 「仕立て屋の恋」「髪結いの亭主」「タンゴ」のパトリス・ルコント監督の1999年作品。 運命の男を探し、出会っても捨てられ人生に絶望。 身を投げようと、セーヌ川に架かる橋の上に立つ娘アデル(ヴァネッサ・
2. 髪結いの亭主  [ ただの日常 ]   May 04, 2005 02:37
素人インチキレヴュー第47弾            『LE MARI DE LA COIFFEUSE』監督 パトリス・ルコント 出演 ジャン・ロシュフォール アンナ・ガリエナ ロラン・ベルタン フィリップ・クレヴノ モーリス・シュヴィ アンリー・ホッキング原題も素敵ですね!&nbsp
3. 髪結いの亭主  [ ゆきの気ままに評論&雑談ブログ ]   May 05, 2005 21:53
出演: ジャン・ロシュフォール, アンナ・ガリエナ, その他 監督: パトリス・ルコント アントワーヌは子供の頃から髪結いの亭主になることを夢見ていた。 念願叶い、彼はマチルドという髪結いの女性と結婚する。 美しく優しい妻と満ち足りた平穏な生活を送り、10年
4. 髪結いの亭主  [ Movie☆Diary ]   May 09, 2005 19:00
素敵な感想で、真剣に読み入ってしまいました。 本当にこの映画がお好きなのですね(。>0<。) 表現下手ですが、私からもTBさせていただきました。
5. 髪結いの亭主  [ kazuの夢劇場 ]   May 28, 2005 23:05
今日はフランス映画『髪結いの亭主(原題: Le Mari de la Coiffeuse, 米題: The Hairdresser's Husband)』です。最近この映画の監督Patrice Leconte(パトリス・ルコント)の作品『列車に乗った男(原題: L' Homme de Train, 米題Man on the Train)』を見て、久しぶりにこ.
6. 髪結いの亭主  [ repulsion* ]   January 28, 2006 23:53
1990年フランス監督・脚本パトリス・ルコント出演ジャン・ロシュフォール、アンナ・ガリエナ、ロラン・ベルタン、フィリップ・グレヴノ                                  □■■■■作品オススメ度■■■■■キャスティング□■■■■...

この記事へのコメント

1. Posted by Kaz.   May 03, 2005 03:21
TBありがとうございます。
この作品も何ともいえない魅力を持った映画ですよね。
パトリス・ルコント大好きです。

ルコント繋がりという事で、こちらからもTBさせていただきます、どもっ!
2. Posted by なごら〜   May 06, 2005 17:11
TB、ありがとうございます。

わたしもこの映画、好きです。
私はつい最近、初めて観たのですが。

映画って、観る時期が違うと感じ方も違いますよね。

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