April 15, 2005
映画「アビエイター」(以下、酷評です)
嫁さんと、ディカプリオの「アビエイター」を観に行った。
映画館に足を運ぶのは「オペラ座の怪人」以来、約二ヶ月ぶりだが・・・。
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しかしこれは、予想を見事に裏切らず、ひどい映画だった。
最初から嫌な予感はしていたのだが。
しかも三時間十分というのは、無駄に長すぎである。
雑誌に「アカデミー賞は惜しくも逃したが・・・」なんて書いてあったけれど、僕としてはまったくそういうレベルの話ではないと思う。
いろいろと、気に入らない点をあげていけばキリがないのだが、もっとも大きな欠点といえば、やはり脚本だろうか。
全体的に、作品を強烈にひっぱっていくだけの一貫した力がなく、すべてが散漫である。
ジョン・ローガンという人はあの「ラスト・サムライ」を書いた人だというから、むしろその編集力不足、刈り込み不足、監督の力不足、が大きいといったほうがいいのかも知れない。
根本的な問題としてまず、この映画のコピー「すべての夢をつかんだ時、いったい何が見えるのだろう」だが、物語のテーマや内容にまったくふさわしくないのではないか、と僕は思う。
そもそもディカプリオ演じるハワード・ヒューズを見て、「すべての夢をつかんだ」ようにはまるで見えない。
我が儘放題、言いたい放題している姿と、テスト飛行するたびにトラブルを起こす飛行機しか印象に残らないので、とても「すべての夢をつかみ、頂点まで昇りつめた男」とは思えないし、羨望も湧かない。
その先に何があるのか、という興味も湧かない。
また実際のハワード・ヒューズの伝記的事実をかいつまんで読んでみる限りでは、そのようなコピーをつけるのはそもそもおかど違い、見当違いなのではないか、という気がしてくる。
「大富豪」であったり、ある時期に「大きな成功」を手にしたりというのは、一つの外的側面にすぎないのであって、彼という一個人の特殊性、内面的苦悩、あるいは逆にその普遍性をきちんと掘り下げて描かなければ、何一つ観る者の深いところに響いてこない。
冒頭、少年時代のハワードの体を母親が洗う場面で、母親が”quarantine”という言葉を呪文のように語り、それが後々のハワードを特徴づける”強迫神経症”への布石となる、という設定も、ドラマの伏線のはりかたとしてはあまりにもお粗末である。
クライマックスである公聴会の議論も、ハワードのあの程度の言い分、反論でやりこめられてしまうとは、いかにも緊迫感、迫力に欠ける。あれでは相手の議員、またアレック・ボールドウィンが、あまりにも考えの足りない、闘うに値しない人物に見えてしまう。
おおまかに言って、「伝記」的部分にとらわれすぎて何もかも描こうとしすぎ、すべてのエピソード、人物、感情的、心理的側面の掘り下げが浅く、中途半端である。
「大きな成功」と、その影にある「強迫神経症」、そのあたりにクローズアップして、ハワードのより人間らしい葛藤や苦しみ、それに関わる人々の人間ドラマに焦点を絞ったほうが、よほどいいものが出来たのではないか。
「共感できない」「感情移入できない」のは、この主人公が特異な境遇、才能を与えられていて普通の人々と違うからではなく、描きかたそのものの底が浅すぎるからである。
僕個人的に言って、この作品からインスパイアされるものは何もない。
しかし思うのだが、ブロードウェイでの公演の成功が、ニューヨークタイムズに載る劇評家のレビューに大きく左右されるというように、日本でもそういう正統的な、信頼できるきちんとした批評文化があってもいいのではないだろうか。
今回の「アビエイター」を絶賛する人、超感動した、という人だってもちろんいていいわけだけれど、自分の趣味や生理、価値観や美学の問題として、どうしても合わない作品というのはやはりある。
そういう時に、「この人の批評は信頼できるから」という人が自分なりにいれば、無駄足を運ばなくてすむし、限られた時間、おこづかいの中で、何を観ようかというのも、選別しやすくて助かる。
「ロードショー」とか「スクリーン」なんか買ってみても、きれいなグラビアを眺めて楽しむだけで、あまり参考にはならない。
褒めてるばかりで悪いことは何も言わないもんね。
そういう意味では、いろんな人のブログを読んでるほうが、よほど参考になる。
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この記事へのコメント
同じように、感じていらっしゃる方がいてよかったです。
今だから、言えますが、あの映画はとてつもなく眠かったです。
ヒデさんと同じように、編集力不足だと思いますね。
名前とか、話題とかだけにとらわれて映画を見てしまった俺が馬鹿でした。(反省)
次は、お互いいい映画を観たいですね!!^^
こちらからもTBさせていただきました。
まったく同感です!
どんな豪華なキャストを揃えようが、つまらないものはつまらないですよね〜。
ヒデさんの指摘はすごく的確なので、興味ぶかく読ませていただきました。
おっしゃるとおり心理面とか感情面の描写が浅いですよね。
薄っぺらい映画だと思いました。
話題づくりでとりあえず見てしまう自分もミーハーなんですが(笑
またお邪魔してもいいですか?
私もブログ始めたばかりですが、映画はどんどん書いてく予定なので
お時間あるときにでもまた覗いてみてください。
TBありがとうございました。それでは。
退屈でしたね。テンポが平坦で編集力不足というのは同感です。
それと途中メイヤー氏が2人出てきて混乱させられました。あれは翻訳の時にそうなったのでしょうかね。
ただ、自分的にはそこまで駄作だとも感じませんでしたが。でもその中途半端さのせいでまた、あとに残らない映画でした。
名前とか話題で観にいくのは、ある程度しょうがないことですよね。
すべての映画を観られるわけでもないし、何か判断材料が必要ですから。
今月僕は「Shall we Dance?」を観に行く予定なので、そっちに期待します。
またこのブログで報告させていただきますので、よかったらのぞいてみてください。
「豪華キャストを集めればいい映画」、というのと、「ホームランバッターを集めれば試合に勝てる」というのとはほとんど同じですね。もちろんそんなことはないわけですが。
「アビエイター」については賛否両論はっきりと別れているようですが、僕はどう逆立ちしても、この映画を「面白かった」とは言えません。
ディカプリオがどうだったとか、俳優それぞれの演技がどうだったかとか、そういうのはまたまったくの別問題です。
そちらへも、またお邪魔させていただきます。
しかしいったい、オスカーの選考基準ってなんなんでしょうかね?
どの程度で「候補」にあがるんでしょうか?
そのへん、僕はまったく知らないんですが。
『ギャング・オブ・ニューヨーク』ですか。
僕は観たことないですね。
観たことないですが、それでは観ないことにします。
ありがとうございました。
この映画を「つまらなかった」という人たちの、その言いたいことのポイントは、やはりそのへんに共通してくるんでしょうね。
僕はちょっとムキになって批判しすぎているのかも知れませんが、払った1,800円という金額以上に、貴重な休日の、3時間もの時間をあの映画に奪われたということに対して、むしろ腹が立つんですよね。
だったら途中で席を立てばいいんですが。
そのへんが、なんともかんともという感じです。
ケイト・ブランシェットやディカプリオはそれなりに
頑張ったのかもしれませんが、物語がおもしろくなかった。
オスカーを5部門取ったのが信じられないくらいの出来でしたね。
しかもそのうち1つは「編集賞」。笑いが止まらない。
たぶん90分ぐらいにしてもつまらなかったのではないかと思います。
結局この映画を通してどういうメッセージを送りたいのか、
私にはよく分かりませんでした。
ブログ拝見しました。まさしく共通する感想を書いていらっしゃったので、びっくりしました。でもこの映画の場合、そんなことで喜んでる場合ではないですね(苦笑)。
「編集賞」ですか。それはなにか気のきいたアメリカン・ジョークのようなものでしょうか?
明らかに編集に難があるとはいうものの、もともとつまらないものをいくら切り詰めても、やはりつまらないでしょうね。
この映画の「メッセージ」なんて、本当のところ作っている人たちにもわからないんじゃないでしょうか?そういう意味で、やはりこれは漠然とした伝記であって、「ドラマ」ではないと、僕は思います。
”アビエイター”についての 鮮やかな感想・・
ウンウン 納得してしまいました
「この人の批評は信頼できるから」・・というお部屋をここに見つけた思いです
ときどき お邪魔させてくださいませ
確かに、盛りだくさん過ぎて話が散漫な気はしました。
映画に詳しくないので、なんともいえませんが。
でも、ディカプリオはいい感じでした。
身にあまるコメント、ありがとうございました。
僕はただ自分が思ったことを、独断と偏見ぷんぷんに吐き出しているだけですので、あまり公平・客観的な批評とは言えないかと思います。
でも出来るだけ、不当に不公平にはならないようにしたいと思います。
そちらにも、またお邪魔させて下さい。
散漫な感じ・・・結局のところ、集約すればそういうことですよね。それしか言いようがないと思います。
僕も別に、ぜんぜん映画に詳しいわけではなくて、ただ自分が面白かったかつまらなかったか、自分がどう思ったか、という基準だけで書いているわけですが。
ディカプリオはがんばっていたと思います。キャサリン・ヘップバーンをやった女優さんも、アレック・ボールドウィンも良かったです。
しかし僕も自分が演劇をやっているのでことさらに思うんでしょうが、個々の役者がどれだけ良くても、作品の良し悪しというは最終的には「面白かったか」「感動したか」だと思います。そういう点で、僕にとっては今回はまったく駄目な作品でしたね。
確かに、僕も脚本の散漫さは否めないと思いますが、映画のコピーもおかしいと思います。が…、面白かったと思います。結局、あそこに描かれた生き方に共感できるというのが大きいのだと思います。
ただ、伝記としてより物語としてみるべきだと思いました。面白くないと感じた人には物語としてならばもっと酷いとお叱りを受けるかもしれませんが。
人それぞれいろんな感じかたがあるし、それはそれでいいと思います。
映画をどんな観点から楽しむか、というのによっても、作品に対する感想、評価というのはまったく変わってきますよね。
僕の場合、最初から個々の役者うんぬんで見るとか、豪華なセットや、衣装、すごいCGに感心して観るということはあまりなくて(後になって「すごかったなあ」とはもちろん思うんですが)、やはり物語全体からどんな驚きや感動を受け取れるか、映画を見る前と見た後では、自分の中の何かに変化が起きただろうか、という点を重視します。
うーん、そうですね。僕としては、「物語」として考えた場合、評価はより低いほうへ行ってしまいます。
私もこの映画はひどすぎるとおもいました。中盤の大惨事を引き起こした飛行機事故で主人公が死んだら素晴らしい『伝記』とラストなったとおもったほどですから。ところで日系エンターテイメントという映画雑誌で『ディカプリオは出る映画選びから間違ってる(要するに彼の主演の映画は評価が低い)』と酷評されていたのをご存知ですか?もちろんタイタニックは除きますけど。まあ、とにかくひどい映画でした。
では!トラックバックありがとうございました!
日経エンターテイメントですか。今度手に取ってみますね。
『ディカプリオは出る映画選びから間違ってる』ということですが、僕もそう思います。それから、彼が迫真の演技で頑張ったとか、だから偉いとか、すごいとか、そういう風に評価する向きもあるようですが、僕はそんな問題ではないと思うんです。ようは映画として面白かったか、優れていたか、ということなわけですから。
それに彼は基本的にああいう、童顔な若作りなのですから、自分の持って生まれた資質にふさわしい役、映画を選んでいくべきだと思います。
年齢的な見た目だとか、雰囲気だとか、それは本人の努力だけではどうしようもないことですから。
そのへんを自覚できず、無理な背伸びをしてしまうあたりが、ディカプリオ自身の「強迫神経症」的ところだと、僕は思います。
私は素直に「面白い」と思いました。伝記とは思わないで見ていたからなのかもしれませんね。
それに私は、客に感動させないで鉛を飲ませて「はい終了」っていう映画も嫌いではありませんし(これが一番の理由かな?)
にしてもハワード・ヒューズという人が削りまくってもこれだけ残るほど波乱万丈だったんだなぁと。とても好意的に解釈してます。
あとスコセッシの消化不良もありますが、むしろよく3時間でまとめたよな…みたいな感覚だったりしますw
コピーは多分、最後の台詞とリンクしてるのかと思います。
ただ本当にそうなんだとしたら、ライターが下手すぎですが…。
そういえば本国でのアカデミーの評価では「でぃかぷりお?何それ?」だったようです。J・フォックスが当然獲るという論調だったようです(´∀`;)
長々と失礼しました。では!
「アビエイター」を観て「面白い」と感じる人も、やっぱりいるんですよね。もちろんそれはそれでいいんですが。誰がなんと言おうと、自分が面白かったと思えれば、それでOKだと思います。
ただ申し訳ないけど、僕は本当に、素直に面白くありませんでした。
ひどい言い方かも知れないけど、今誰かに2,000円あげると言われても、僕はもう一度あの映画の前で三時間座っていたくないです。
すいません。これに懲りず、またぜひお越し下さい。
お礼が遅くなってしまい、申し訳ありません。
なるほど、私が映画を見たあとにハワードヒューズへの興味しか残らなかったのは、人物の描写の浅さだったのかもしれないと思いました。
でも、この淡々とした感じが、他人の人生を見るという面ではリアルなのかなと思ったりもしてます。
実際に、隣に生きている人の人生は表層でしか見れませんし、そこからいろいろと読み取っていくのは自分自身でしかないですし。
そう思うと、どうせならハワードヒューズが死ぬまで貫徹してほしかったように思います。
まあ、初めから何も予備知識を持たないでみたので、それなりに楽しめました。
ではでは。今日はこれにて。TBありがとうございました。