February 14, 2005

アーサー・ミラー氏を偲んで・・・第2夜 「セールスマンの死」

 新劇界における歴史的名作「セールスマンの死」について、舞台を見たことのない人、戯曲を読んだことのない人、またこの先もおそらく読むようなことはまずないだろうという人たちのために、その簡単なあらすじを、ご紹介したいと思います。
 持っていた台本を人に貸してしまっていて手元にないのですが、内容はだいたい覚えていますし、その他の資料なども参考にしながら、出来る限り記憶を掘り起こしてみたいと思います。
 それから、このサイトで扱う書籍、映画、演劇等については、基本的にすべてネタばれですので、ご注意下さい。
 

 舞台は1940年代のアメリカ、ニューヨークのブルックリン。
 物語は、主人公である老いたセールスマン、ウィリー・ローマンが夜遅く帰宅するシーンで始まる。
 彼は車に商品のサンプルを積み込んで地方を巡業し、新たな販路を開拓するセールスマンである。
 ボストンへの長い旅路のセールスに向かったはずの彼が、思いもよらず帰ってきたことに妻は驚きつつ、やさしく迎える。
 どうしたの?何かあったの?いや、ちょっとした事故があってね、たいしたことはないんだ。

 事故自体は、たしかにたいしたことではなかったが、しかしリンダには気がかりだった。同じような事故が、ここのところ何度も続いていたからだ。
 二人のやりとりが続く中で、リンダ(あるいはウィリーだったか)がもらす。
 車も、冷蔵庫も、洗濯機も、家も、やっとローンを払い終えて自分のものになると思ったときには、みんな駄目になってしまうのね。

 この何気ない会話が、このあとの物語のテーマを一貫してひっぱっていく、さりげない、しかし強烈な伏線となる。
 
 彼はセールスによって、学歴もなにも持たない人間が自分の腕一本で巨万の富を手にするという、まさにアメリカン・ドリームを信奉してきた男であった。
 若い頃はそれなりのセールスもあったが、今ではお得意先も次第に世代交代し、なじみの客もほとんどいなくなりつつある。昔のように、とにかく愛想良く、人に好かれさえすれば、そうしてコネクションをつくりさえすれば、物を買ってもらえるという時代ではなくなってしまっている。
 ようするに、彼は年をとりすぎたのだった。彼はすでに時代遅れであり、過去の人間であった。社会や価値観の変化は容赦なく彼を置き去りにし、
片道10時間もの距離を運転してセールスに向かうには、体力的にも限界だった。これ以上、セールスによる歩合給だけでやっていくのは無理がある。
 
 彼には二人の息子がいた。長男のビフと次男のハッピーである。
 長い間家を留守にしていたビフが、ゆえあって、家に帰ってきている。
 ビフは高校時代、アメリカン・フットボールの花形選手であった。誰もが一目置き、将来を有望視され、さまざまな有名大学からオファーがあった。
 「こいつは将来ぜったいに大物になる」
 ビフは、ウィリーにとってなによりの自慢の種だった。
 しかしビフは、ある出来事をきっかけに、大学進学を自ら放棄し、その後は職を転々としていた。何をやっても長続きしなかった。今は西部の牧場で働いていて、一時帰郷したのだという。
 あれほど自慢だった息子、あれほど将来のあった息子が、なぜ今そのような状態に甘んじているのか、ウィリーには理解することが出来ない。
 おまえには、人並み以上の能力がある、おまえが頼みさえすれば、どんな所にだって就職できるはずだし、もし本当に自分の力を試してみたいというのなら、その事業資金ぐらい簡単に貸してもらえるはずだ。
 ウィリーは今でもそう信じている。
 いったいなぜ進むべき道を決めかね、人生をそのように無為に費やしているのか?

 家族を愛し、家族のためにこれまで懸命に働いてきたウィリー。
 なのになぜ息子たちは、今このような状態にあるのだろう。

 過去の栄光ののち、失敗と挫折続きで、何をやっても長続きせず、敗北主義とも言える自堕落な生活を送り、軽犯罪にも手を出し、自分自身をなんとかしようという気持ちはあるものの、どうしていいかわからず、失意の日々を送るビフ。
 自信過剰で、実行力のともなわない大言壮語ばかり吐き、女ったらしで軽薄な遊び人のハッピー。
 
 ビフが、今では自分のことを憎んですらいることに、ウィリーは気づいている。
 
 物語は、過去と現在、そしてウィリーの心像風景を詩的に、たくみに織り交ぜながら、進んでいく。
 そして次第に、なぜビフが父を憎むようになったかも、過去の出来事から明らかになってくる。
 
 そして重要なのが、ウィリーの過去における、ウィリーの父親との関係、、そして兄との関係である。
 ウィリーの意識の中で、極度に美化されたかのようなイメージをまとって、二人はあらわれる。
 ウィリーの父親は、西部開拓時代の最後を生きた、ロマンのある男であった。兄はアラスカに赴き、そこで一攫千金を手にした、まさに時代の成功者であり、「アメリカの夢」を体現したような人物であった。
 記憶の中で、さかんにベンがウィリーに語りかける。アラスカに行こう。
−−なぜアラスカに行かないんだ?
 
 セールスにあくせくと走り回り、疲れた体をひきずるようにして、ローンの返済に追われる小さな家に帰ってくるウィリーとは、実に対照的な二人。
 二人の姿はときにウィリーを、憧れへ、夢へと駆り立て、また死へと駆り立てることにもなる・・・。
 
 ビフがなぜ高校時代、あれほどの期待を体に浴び、その実力も備えながらも、大学進学を放棄することになったのか。
 
                                       続く。

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jailz at 22:11│Comments(0)TrackBack(0)演劇 | 

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