February 13, 2005

アーサー・ミラー氏の死

 「セールスマンの死」などの名作で知られるアメリカの劇作家アーサー・ミラー氏が10夜、コネティカット州の自宅で、鬱血性心不全のため亡くなった。八十九歳だった。

 という記事を今日新聞で見て、僕は愕然としてしまった。
 ついこの間もこのブログで彼の著書「北京のセールスマン」について少し書いたばかりだった。

 「セールスマンの死」の戯曲を読んで以来、ミラー氏はぼくにとって演劇の、そして人生の、大きな精神的師であった。
 尊敬する人は?と聞かれたら、彼の名をはずしては考えられなかっただろう。
 彼が与えてくれた影響は大きい。
 とりわけ演劇に正面から向き合おうとするとき−−これから稽古に入ろうとするとき、あるいは劇作や、脚色に取り組もうとするとき、彼の文章は、いつも僕に一つの指針をさし示してくれた。

 こんなにも素晴らしい劇作家がいるのだという感嘆と尊敬の気持ち、そして自伝などから感じ取ることの出来る、彼の社会に対する温かくも鋭く厳しい視線。何事をもなおざりに、ないがしろにしないその毅然とした姿勢。
 僕にとって彼は、演劇における精神的支えであり師であるとともに、永久に越えることのできない憧れだった。

 1950年代のマッカーシー旋風(赤狩り)を強烈に批判した、17世紀末にセイラムで起こった魔女裁判を題材にした「るつぼ」では、当時、多くの映画人、劇作家やその他多くの芸術家がその政治的圧力な前に屈し、その後の人生を大きく、決定的に方向転換させてしまった中にあって、彼は断固として自分の信念を貫き通した。
 「私は自分の良識を守りたい。他人の名前を引き合いに出して、その人たちに迷惑をかけるわけにはいかない」

 公演は上演寸前で禁止され、海外公演のための渡航手続きでは旅券の発行を拒否され、下院非米活動委員会での喚問では、上記の発言と証言拒否により、国会侮辱罪に問われた。

 彼が劇作する上で常に考えていたこと、そのもっとも大きなモティベーションであったのは、その人物がいったいどこから来たのか、なぜものごとや人々が現在の状態になったか、ということに対する不思議であったように思う。
 それはつまり、どのような真理が人生を支配しているか、なぜ彼はそうならなければならなかったのか、あるいは死ななければならなかったのか、ということである。人間を、常に社会的存在として、家庭、社会、国家といった連帯性の中でとらえ、家庭劇のスタイルの中に、その倫理的基盤と社会的責任、正義観と、試練を見出した。
 彼が重視したのは、因果関係に基づくプロットであり、加えてそこには、「セールスマンの死」に顕著にみられるような、「高みへと向かおうとする」精神、人間にとってもっとも価値ある、守るべきものに対する戦いがあった。


 本当に、本当に、惜しい人を、かけがえのない人を亡くしました。
 ご冥福を祈ります。

北京のセールスマンジェインのもうふ―アメリカのどうわ
アーサー・ミラー全集 1 改訂版 (1)
アーサー・ミラー全集 (2)
北京のセールスマン
アーサー・ミラー自伝〈上〉
アーサー・ミラー自伝〈下〉
アーサー・ミラー―劇作家への道
アーサー・ミラー全集〈6〉
現代史を告発する―アーサー・ミラーの半世紀
アーサー・ミラー



jailz at 21:29│Comments(1)TrackBack(1)演劇 | 

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1. 橋からの眺め  [ 舞台ビギナーズ! ]   December 11, 2005 23:02
お待たせしました!初舞台の詳細です! 劇団民藝・紀伊國屋書店提携公演 「橋からの眺め」(原題:A VIEW FROM THE BRIDGE) 作:アーサー・ミラー 訳:菅原卓 演出:兒玉庸策 平成17年度文化庁芸術創造活動重点支援事業 東京公演日程 2006年2月8日(水)〜20日(火) ...

この記事へのコメント

1. Posted by ゆみおゆみ   October 22, 2005 23:09
 初めまして。「アーサー・ミラー氏の死」のブログ読ませていただきました。
何故このブログを見つけたかと言いますと・・・。
 来週とある町役場の二次面接試験を受けることになりました。自己分析をしていて、大学での卒論のテーマを思い出せなくなってしまいました(情けない・・・)。アメリカ文学を専攻していたのでヤフーで検索をし、卒論のテーマが、『アーサー・ミラーの「セールスマンの死」にみるフェミニズム』だったことを思い出しました。そしてこのブログにたどり着いたというわけです。
 いわば卒論の為に「セールスマンの死」を読んでいた自分が恥ずかしくなりました。と同時にこんなにも尊敬すべき劇作家だったことを改めて知り、久々にこの作品をもう一度読んでみたくなりました。
 また他のブログもチェックさせていただきたいと思います。

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