January 21, 2005

北京のセールスマン

 無人島に一冊だけ本を持って行くとしたら?
 という質問を、たまに聞くことがある。
 実際、そんな羽目におちいるようなことはまずないと思うのだが、これはなかなか深遠な問いである。
 真剣に考えても、なかなかこれという答えが出ない。何を選んでも、何かが足りないような気がしてしまう。

 だいたいそんなこと、本当のところ誰にもわからないんじゃないかと思う。だってたとえ今どれほど好きな本でも、将来的に自分がずっとその本を必要とするかどうか、あるいは別の本を本当は必要とするのかどうか、誰にわかるだろう?
 「聖書」とでも簡潔に答えることができたら楽なのだろうが、あいにく僕にはそういった特別な信仰もない。
 僕の奥さんに聞いたら、「無人島には本なんて必要ないわよ」ということだった。
 なるほど。
 
 普段はもちろん、そんなことはまったく考えてもみないのだが、しかしそれでも年に何度か、僕はこの質問を自分自身に切実に問いかけざるを得ない場面に直面することがある。
 つまりそれは、旅行に出かける時である。
 
 僕は明日から東京へ、劇団昴の「ゴンザーゴ殺し」を観に1泊二日で行くのだが、さて、一体なんの本を持って行けばいいだろう?
 たかだか高速バスで、片道四時間、往復八時間の旅である。
 つまらない悩みと言われれば確かにそうなのだが、悩み出すと、結構きりがない。
 
 一週間前から僕の中で候補としてあがっていたのは、
 1.マーガレット・A・サリンジャー「我が父サリンジャー」
 2.ヴァージニア・ウルフ「ある作家の日記」
 3.アントン・チェーホフ「短編と手紙」
 4.アーサー・ミラー「北京のセールスマン」
 5.L.M.モンゴメリー 「赤毛のアン」
 である。

 4の”北京”以外は、どれもまだ一度も通して読んでいない。衝動買いで買ったきり、もう一年近く本棚でほこりをかぶっているものたちである。ただ「赤毛のアン」は、いつか自分で脚色してみたくて、買ったものだ。
 
 今回、結局悩んだ末に決めたのは、「北京のセールスマン」。
 これは、僕のお気に入りの本で、もう何度も読み返している。
 かの有名なリアリズム演劇の金字塔「セールスマンの死」を書いたアーサー・ミラーが1983年にこれを北京で演出した時の、ミラー自身が書いた記録。
 僕が誰よりも尊敬する作家アーサー・ミラーの本ということもあるけれど、この本は同じ演劇人として(というほどでもないけれど)、このうえなく興味深いエピソードと、多くの示唆に満ちている。
 一つの演劇作品を作りあげていく上での苦労、人が向き合わなければならないもの、その姿勢。
 ミラーの社会に対して向ける眼差しも、冷静で鋭く、厳しく、それでいて人間性そのものに対する温かさのようなものが感じられて、読むたびに、さまざまなことをを考えさせられる。これを読むと、「もっともっと真剣に演劇をやりたいな」と思ったりする。自分の稽古が始まったばかり、というような時期にも、よく読み返している本である。
 
 しかし読んでいない本がいっぱいあるのに、結局ここに落ち着いてしまうか・・・。
 興味があったら、「北京のセールスマン」読んでみて下さい。
 
 それにしても、JACK DANIEL'Sって、うまい酒だなあ。

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jailz at 20:24│Comments(0)TrackBack(0) | 演劇

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